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CW: #スーパー偉業のドーベルさん ドーベルさんと、店頭のiPhone

 買い物っていうのは信頼のやり取りであって、騙し合いではないのだけれど、そのあたり、最近になって曖昧になっているのか、それとも本当は昔からそうだったのか――そんなことを、ショッピングモール「スーパー偉業」で警備員として勤めながら、ヨハン・ドーベルは思ったりする。

 Misskey.ioの中心街と同じく翠色の空と真珠色の太陽を背にして、.ioのサーバーの街の郊外、野原の緑の鮮やかな丘陵に巨きく建ったスーパー偉業は、生鮮食品や生活雑貨はもちろん、家電や家具、衣料品や玩具・ゲームの売り場、フードコートにゲームセンター、ペットショップまで揃えた、.ioの街のミスキストの生活には無くてはならない場所である。

 スーパー偉業で働くスタッフの中にはもちろん警備員もおり、彼らのための警備員室もある。監視カメラの映像が壁に設置された大型モニターに分割画面で時々刻々と映し出され、待機の警備員はいつでも緊急事態に出動できるように準備している。

 悲しいかな、ショッピングモールなのでトラブルがあり、そのために警備員がいる。しかしそれでもMisskey.ioはドーベルにとって、現実世界よりはまだ居心地がよく、なぜなら自分の好きな姿――ドーベルマンの獣人の姿――で、警備員という自分のキャリアと地続きの暮らしができるのが、ありがたかった。

「盗ったもの、ここに出して」

 警備員室の中央に置かれたテーブルを挟んで、ドーベルと向かい合わせで座っている、青髪でウサミミの少年。少年は不服そうな面持ちでパーカーのポケットをまさぐると、重々しく「盗ったもの」をテーブルの上に置く。それは最新のiPhoneだった。店頭ディスプレイのためのスタンドの部品が背面に貼り付いていることから、展示品であったことが分かる。

「なんで盗ったの」

 タブレットPCに表示された調書のフォームにキーボードで入力しながらドーベルが訊くと、ウサミミの少年は唇を尖らせながら言う。

「iPhone、高くなるっていうから。もっと高くなったらもう買えないと思ったから」

 その言葉に、思わずドーベルはため息を吐く。

「高くなるって話はアメリカ国内のことだろう」

「分かんないよ? 日本でも高くなるかもしんないじゃん」

 少年にそう言われて、ドーベルは否定することができなかった。たしかに、分からないのだ、いまの世界の情勢がこの先どうなるか。ドーベル自身が不勉強であるのは認めざるを得ないと彼自身も思っているが、専門家の話をインターネットで調べても「先行不透明」と書いてあるか、もしくは詐欺師めいたアカウントの「必勝法」ばかりであった。

 それでも、ドーベルは自分の至らなさを横に置いて説教できるくらいには大人だった。ドーベルはウサミミの少年に向かって言う。

「だからと言って店のもの盗っていいわけではないことぐらい、分かるだろう」

「ここはMisskey.ioのサーバーの中なんでしょ、バーチャル空間の窃盗ぐらい許してよ」

「Fediverseはバーチャル空間であってもゲームの中じゃない。現実世界と地続き、悪いことは悪いことだ。君だってFediverseではiPhoneをチートコードで入手できないことが分かっているからこうやって展示品を万引きしようとした、そうじゃないのか?」

 ドーベルが問い詰めると、ウサミミの少年は目を逸らしてニヤリと笑ったあと、テーブルに頬杖をついて、流し目でドーベルに訊いてくる。

「ねえ、警備員さん。警備員さんが子供のころのインターネットは今みたいに窮屈じゃなくて、自由だったんでしょ?」

 その質問にも、ドーベルは表情を崩さない。

「自由ってのがなにを指してるのか知らんが、犯罪が許されていたわけではないな」

 ドーベルの言葉に、ウサミミの少年は鼻で嗤って、椅子の背に深くもたれる。

「.ioはまだマシだっていうけど、やっぱり窮屈だよ、センシティブ判定とか、リアクション制限とか、政治宗教ネタに厳しいとか。もっと自由な発言と活動が許されていたころのインターネットがある時代に生まれたかった」

「Xにでも行けばいい」

「Xはいいよ、別にケンカしたいわけじゃないし」

 顔をしかめるウサミミの少年に、ドーベルはマズルから牙をむきだしながら、少年を睨んだ。

「自分のわがままにつき合ってくれる都合のいいインターンネット空間が欲しかったと言っているように聞こえるな。そんなものはこの世に一度でも生まれたことはなかったと思うぜ、諦めな」

 そう言って睨んだドーベルの光のない瞳は、前線から撤退した兵士のそれであった。洞穴に吸い込まれるような視線に凝視され、ウサミミの少年は姿勢を正して椅子に座り直す。

「……でもさ、じゃあさ、これからのインターネットはどうなるかな? 未来のインターネット。もっと窮屈になる? それともインターネット、無くなる?」

 怯んだ表情を見せながらも諦めずに訊いてくる少年の問いに、ドーベルのタイピングが止まる。

 未来が分からない、なにもかも。明るい未来を示すことも、暗い未来に道標の明かりを灯すことも出来ない自分が、ドーベルは堪らなく情けなかった。だから妻だった人は自分を捨てたのだろうか、息子はいつも自分の前で苛立つのだろうか――。

「分からん。ごめんな、教えてあげられなくてな」

 ドーベルは自分の引け目を取り繕うことができなかった。思わぬ反応に、ウサミミの少年は爆笑してしまう。

「アハハ! おっさん! な~に謝ってんのカッコ悪!」

 そこに、ライオンの顔に警備の制帽を被った男が、警備員室のドアを開けて入ってくる。ドーベルの部下であるライオン系獣人の澤部は、背後に青髪でウサミミを生やした妙齢の女性を従えて入って来た。

「ドーベルさん、親御さんいらっしゃいました」

「あんた! ツイッターの変なのみたいなので、なにやってんの!」

 女性が一喝すると、少年は頭を抱えて身を低くし、テーブルの下に隠れてしまった。その様子を見てもドーベルは、キーボードを打つ手をまだ動かせずにいた。自分が親であることに失敗したことを思って、まるで石像にでもなったようだった。

 ショッピングモール「スーパー偉業」では様々な商品を販売している。村上さん印のミルクココアもある、藍ちゃんなりきりコスプレセットもある、しゅいろさんお墨付きの焼き立てピザも売っている。

 だけど、未来に関しては、ほんの数秒後であってさえ、いまだに取り扱いが無い。
#フェディバーシティ・コネクション #スーパー偉業のドーベルさん #MisskeyWorld

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CW: #スーパー偉業のドーベルさん ドーベルさんと、店頭のiPhone

 買い物っていうのは信頼のやり取りであって、騙し合いではないのだけれど、そのあたり、最近になって曖昧になっているのか、それとも本当は昔からそうだったのか――そんなことを、ショッピングモール「スーパー偉業」で警備員として勤めながら、ヨハン・ドーベルは思ったりする。

 Misskey.ioの中心街と同じく翠色の空と真珠色の太陽を背にして、.ioのサーバーの街の郊外、野原の緑の鮮やかな丘陵に巨きく建ったスーパー偉業は、生鮮食品や生活雑貨はもちろん、家電や家具、衣料品や玩具・ゲームの売り場、フードコートにゲームセンター、ペットショップまで揃えた、.ioの街のミスキストの生活には無くてはならない場所である。

 スーパー偉業で働くスタッフの中にはもちろん警備員もおり、彼らのための警備員室もある。監視カメラの映像が壁に設置された大型モニターに分割画面で時々刻々と映し出され、待機の警備員はいつでも緊急事態に出動できるように準備している。

 悲しいかな、ショッピングモールなのでトラブルがあり、そのために警備員がいる。しかしそれでもMisskey.ioはドーベルにとって、現実世界よりはまだ居心地がよく、なぜなら自分の好きな姿――ドーベルマンの獣人の姿――で、警備員という自分のキャリアと地続きの暮らしができるのが、ありがたかった。

「盗ったもの、ここに出して」

 警備員室の中央に置かれたテーブルを挟んで、ドーベルと向かい合わせで座っている、青髪でウサミミの少年。少年は不服そうな面持ちでパーカーのポケットをまさぐると、重々しく「盗ったもの」をテーブルの上に置く。それは最新のiPhoneだった。店頭ディスプレイのためのスタンドの部品が背面に貼り付いていることから、展示品であったことが分かる。

「なんで盗ったの」

 タブレットPCに表示された調書のフォームにキーボードで入力しながらドーベルが訊くと、ウサミミの少年は唇を尖らせながら言う。

「iPhone、高くなるっていうから。もっと高くなったらもう買えないと思ったから」

 その言葉に、思わずドーベルはため息を吐く。

「高くなるって話はアメリカ国内のことだろう」

「分かんないよ? 日本でも高くなるかもしんないじゃん」

 少年にそう言われて、ドーベルは否定することができなかった。たしかに、分からないのだ、いまの世界の情勢がこの先どうなるか。ドーベル自身が不勉強であるのは認めざるを得ないと彼自身も思っているが、専門家の話をインターネットで調べても「先行不透明」と書いてあるか、もしくは詐欺師めいたアカウントの「必勝法」ばかりであった。

 それでも、ドーベルは自分の至らなさを横に置いて説教できるくらいには大人だった。ドーベルはウサミミの少年に向かって言う。

「だからと言って店のもの盗っていいわけではないことぐらい、分かるだろう」

「ここはMisskey.ioのサーバーの中なんでしょ、バーチャル空間の窃盗ぐらい許してよ」

「Fediverseはバーチャル空間であってもゲームの中じゃない。現実世界と地続き、悪いことは悪いことだ。君だってFediverseではiPhoneをチートコードで入手できないことが分かっているからこうやって展示品を万引きしようとした、そうじゃないのか?」

 ドーベルが問い詰めると、ウサミミの少年は目を逸らしてニヤリと笑ったあと、テーブルに頬杖をついて、流し目でドーベルに訊いてくる。

「ねえ、警備員さん。警備員さんが子供のころのインターネットは今みたいに窮屈じゃなくて、自由だったんでしょ?」

 その質問にも、ドーベルは表情を崩さない。

「自由ってのがなにを指してるのか知らんが、犯罪が許されていたわけではないな」

 ドーベルの言葉に、ウサミミの少年は鼻で嗤って、椅子の背に深くもたれる。

「.ioはまだマシだっていうけど、やっぱり窮屈だよ、センシティブ判定とか、リアクション制限とか、政治宗教ネタに厳しいとか。もっと自由な発言と活動が許されていたころのインターネットがある時代に生まれたかった」

「Xにでも行けばいい」

「Xはいいよ、別にケンカしたいわけじゃないし」

 顔をしかめるウサミミの少年に、ドーベルはマズルから牙をむきだしながら、少年を睨んだ。

「自分のわがままにつき合ってくれる都合のいいインターンネット空間が欲しかったと言っているように聞こえるな。そんなものはこの世に一度でも生まれたことはなかったと思うぜ、諦めな」

 そう言って睨んだドーベルの光のない瞳は、前線から撤退した兵士のそれであった。洞穴に吸い込まれるような視線に凝視され、ウサミミの少年は姿勢を正して椅子に座り直す。

「……でもさ、じゃあさ、これからのインターネットはどうなるかな? 未来のインターネット。もっと窮屈になる? それともインターネット、無くなる?」

 怯んだ表情を見せながらも諦めずに訊いてくる少年の問いに、ドーベルのタイピングが止まる。

 未来が分からない、なにもかも。明るい未来を示すことも、暗い未来に道標の明かりを灯すことも出来ない自分が、ドーベルは堪らなく情けなかった。だから妻だった人は自分を捨てたのだろうか、息子はいつも自分の前で苛立つのだろうか――。

「分からん。ごめんな、教えてあげられなくてな」

 ドーベルは自分の引け目を取り繕うことができなかった。思わぬ反応に、ウサミミの少年は爆笑してしまう。

「アハハ! おっさん! な~に謝ってんのカッコ悪!」

 そこに、ライオンの顔に警備の制帽を被った男が、警備員室のドアを開けて入ってくる。ドーベルの部下であるライオン系獣人の澤部は、背後に青髪でウサミミを生やした妙齢の女性を従えて入って来た。

「ドーベルさん、親御さんいらっしゃいました」

「あんた! ツイッターの変なのみたいなので、なにやってんの!」

 女性が一喝すると、少年は頭を抱えて身を低くし、テーブルの下に隠れてしまった。その様子を見てもドーベルは、キーボードを打つ手をまだ動かせずにいた。自分が親であることに失敗したことを思って、まるで石像にでもなったようだった。

 ショッピングモール「スーパー偉業」では様々な商品を販売している。村上さん印のミルクココアもある、藍ちゃんなりきりコスプレセットもある、しゅいろさんお墨付きの焼き立てピザも売っている。

 だけど、未来に関しては、ほんの数秒後であってさえ、いまだに取り扱いが無い。
#フェディバーシティ・コネクション #スーパー偉業のドーベルさん #MisskeyWorld

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CW: 小林素顔は皆さまからのファンアートをお待ちしております
現在小林素顔が進めている小説・イラスト・漫画作品は、 #カフェテラスMisskeyio 、 #スーパー偉業のドーベルさん 、 #スナイパー・ロンとスポッター・リー 、 #ミュートのロンとブロックのリー、 #ミっちゃん不破ちゃん現象ちゃん 、 などがございます。 全ての小説作品は#MisskeyWorld でほぼ検索いただけます。 引用ノートにキャラシートも載せておきますので是非ご参照ください。(まだキャラシートができていない小林素顔(代理)とヨハン・ドーベルのイラストはこちらで) キャラクターハッシュタグは以下 #ミスキーガール #リアクションシューターおじさん #個鯖の男 #不破なす子 #現象ちゃん
  • 小林素顔立ち絵.png.webp
  • ヨハンドーベル立ち絵.png.webp

:[email protected]: 4 :[email protected]: 2

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CW: #スーパー偉業のドーベルさん #ミっちゃん不破ちゃん現象ちゃん ドーベルさんと、ハロウィンと、天才エンジニア


 ドーベルマンの獣人が、オオカミ人間の着ぐるみを被っている。
「何が面白いんだかねえ」
 ドーベルマンの獣人はハロウィンパーティーの会場で自分の姿の滑稽さに、首を傾げる。この格好を勧めたのは職場の部下たちだった。プードルの獣人のチェンも、ライオンの獣人の澤部も、揃いのオオカミ人間の着ぐるみを着てこのパーティーに臨んでいた。
 ドーベルマンの獣人、ヨハン・ドーベルはスーパー偉業Misskey.io店の警備主任である。彼は二人の部下の陽気さに少し驚きつつ呆れていた。二人はシャンパングラスを片手にテーブルを囲む初対面の相手に臆さず声をかけて話しているうえに、酔った勢いか親友のように肩を叩いたりハグしたりしていた。獣人がケモノの着ぐるみを着るのがウケるのだと本当に思っているのだろう。
 リビングの片隅で、手持ち無沙汰にドーベルはスマホを取り出して(ご親切なことにこの着ぐるみはポケットがあった)Misskey.ioを開いてみる。Misskey.ioのサーバーの街に居れば数々のノートが街中のデジタルサイネージに映し出され、ローカルタイムラインの表通りに出れば車道をリアルタイムで投稿されたものが流れていくほどにこの街はノートに溢れている。だが、Misskey.ioの街の郊外にあるこのパーティー会場でMisskey.ioを表示している100インチのモニターには人が群がり、ドーベルの最近衰えてきた視力では遠くの画面が見えなかった。
「スマホ調子悪いな」
 このパーティー会場には強力なWiFiが飛んでいると聞いていたのだが、どうにもMisskeyの挙動が不安定だった。あまり多くのアプリも入れず、写真も撮らないドーベルだったのだが、機械には疎いので原因が判然としなかった。
「こんちは」
 突然、視界の外から声をかけられ、ドーベルはスマホをしまって振り向いた。そこには、金髪をツインテールにした青い眼の、身体のラインがくっきりとしたオオカミ女コスプレの女性が立っていた。
「ああ、どうも」
 ドーベルはそっけなく返事する。相手の女性は子供かと思うほどに背が小さかったが、身体のラインは大人のそれだった。もっと楽しそうな人だかりならこの120平米のリビングに沢山いるのに、とドーベルは訝しむ。
「今日はどちらから?」
 金髪の女性はリビングの壁にもたれて微笑みながら訊ねる。特に隠すことも無いのでドーベルは正直に答える。
「Misskey.ioの街の最果て、遠くから。今日のパーティーの主宰のご友人? から誘われてね」
「小林素顔?」
 素早く知り合いの名前を返されて、ドーベルは面食らいながらもうなずく。
「そう、その通り」
 ドーベルの返事に、金髪の女性は苦笑いしながら首を傾げる。
「あのおじさん、どういう人なの? .ioでは怪文書書いてるって言うけど」
「悪い奴じゃないんじゃないかな。いい奴かどうかはまだ分からない」
 ジンジャーエールのグラスをマズルに傾けながらドーベルがそう答えると、金髪の女性はコーラのタンブラーに口を付けたあと、口紅を親指で拭いながら言った。
「慎重だね。いいことだと思う。私は『現象』。現象ちゃんって呼んでいいよ」
 現象ちゃんがタンブラーを目の前に差し出したので、ドーベルはグラスをカチンと合わせて応えた。
「俺はドーベル。ヨハン・ドーベル。よろしく、現象ちゃん」
 そのとき、パーティー会場の真ん中で、子供たちの歓声が上がった。ミスキストの親たちが連れてきた子供たちにお菓子が配られたのだった。
「お、ハロウィンっぽいことをやってる」
 子供たちがお菓子の大袋の中身を改めているのを遠目に眺めながら、現象ちゃんが言うのに、ドーベルはうなずいて答える。
「本来こうだからな。大人が仮装パーティーではしゃぐもんじゃない」
「お子さんはいるの?」
 現象ちゃんの質問に、ドーベルは寂しそうな笑顔を浮かべる。
「いるけど、まあ、お菓子をもらう年でもなし。さすがに友達と楽しくやってるだろうから」
 そう言って、ドーベルはまたスマホを取り出して肉球でスワイプする(着ぐるみの袖にはこれまたご親切なことに手を出す穴があった)。が、やはり挙動が不自然だった。
「スマホ調子悪いな」
「重いの?」
 ドーベルのスマホを覗き込んで、現象ちゃんが訊いてくる。
「いや、なんか、動作がカクカクする」
「見られてマズい個人情報解かなければ、手伝うけど」
 現象ちゃんの提案に、とくに見られて恥ずかしいデータも無いので、ドーベルはスマホを差し出す。
「頼めるかい?」
 受け取った現象ちゃんはスマホの画面を素早くスワイプし、少し考えこんだあと、なにやら真っ黒な画面としばらくにらめっこした後、スマホをドーベルに戻した。
「はい」
「早っ。早いな。ありがとう」
 吃驚しながらスマホを受け取ったドーベルに、現象ちゃんは悪戯な笑みを投げかける。
「奥さんの写真、ないね」
 その言葉にドーベルは虚を突かれた気がした。見られて都合の悪いデータは無かったが、データが無いことから読み取れる情報までは気を配っていなかったからだった。
「そんな一瞬で分かるもんなのかい」
 ドーベルが眉間に皺を寄せながら言うと、現象ちゃんはまたコーラのタンブラーを口に傾けた。
「まあ、詳しくは訊かないけど」
 そんな二人の下に、オオカミ人間の着ぐるみのチェンが近づいてくる、したたかにシャンパンで酔ったその足取りは、ふわふわとしておぼつかない。
「ドーベルさあん、その女、誰すかあ」
 プードル獣人のマズルをキッと食いしばって犬歯を見せつけ、チェンは現象ちゃんを睨みつける。
「初対面で『その女』かよ、親の顔が見てみたいな」
 現象ちゃんは上目遣いに、チェンのことを睨み返す。
「なんだあ」
「なんだよ」
「喧嘩はよしてくれ、頼むよ」
 ドーベルは二人の間に入って衝突を食い止めると、チェンの肩を抱いて宥めるようにさする。
「行ってらっしゃい、ドーベルさん」
 現象ちゃんがドーベルに向かって手を振って見せる。ドーベルは小さく手を挙げて、チェンの肩を抱いてその場を離れ、パーティー会場のミネラルウォーターの置いてあるテーブルへと移動した。
「ほら、水のんで」
 グラスに注がれた水を一気飲みして、チェンはぐずぐずとべそをかく。
「ドーベルさあん、酷いっすよお」
「え? どうした、大丈夫だって」
 ドーベルは戸惑いながらも、胸に縋りついてくるチェンの背中をさすり続けた。
 いろいろな人生がある。それはハロウィンの夜でも同じだ。パーティーはいつだって人生の辛酸をひと時忘れるためにあり、あらゆるご馳走と祝杯は胃の中で人生を消化するためにあるのだ。
 Misskey.ioの濃い碧色の空の夜が更ける。エメラルドの月は煌々と照って、ハロウィンの夜のミスキストたちに安寧の光を注ぐのだった。

#スーパー偉業のドーベルさん #ミっちゃん不破ちゃん現象ちゃん #MisskeyWorld

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CW: #二次創作 #スーパー偉業のドーベルさん ドーベルさんと、Misskeyに訪れた夏


 Misskeyに8月が訪れた。翠色の空に昇る真珠色の太陽は強烈な光でMisskeyのそれぞれのサーバーの街や大地を熱していた。水着姿でビーチパラソルに隠れる者、風通しの良いログハウスでアイスココアを飲む者、地下街に潜って創作の作業に勤しむ者――様々に陽射しを避けながら、ミスキストたちはMisskeyの夏を過ごしていた。
 Misskeyの翠色の空は色さえ違えど日本の青い空と同じく、高く、その向こうに宇宙を感じ取ることができる広さがあった。空からはたくさんのものが降ってくる、それは天の恵みだったり、預言だったり、ときに厄災だったりする。
 Misskeyの高原の小高い丘に建てられたショッピングモール「スーパー偉業」には、今日もMisskeyのいたるところのサーバーから客が訪れていた。.ioから、.designから、にじみすから。生鮮食品売り場へ、生活雑貨売り場へ、書店へ、ペットショップへ、家電製品売り場へ。様々な品をそろえたスーパー偉業はクーラーをこれでもかと利かせて、店内のソファベンチにはスマホを触りながら涼む人々が隙間なく座っていた。
 そんなスーパー偉業の警備室では今日も事件が起こっていた。このスーパー偉業の警備主任でドーベルマン系獣人のヨハン・ドーベルは、目の前のデスクに置かれた見るも無残な商品を眺めて、ため息をついた。
「これは、時事的なことなのかな」
 玩具コーナーでパッケージが破壊されたバービー人形が見つかった。大きなビニール袋にそのパッケージごと入れられて「証拠品」となった人形は、モデレーターによる鑑識を待つ状態だった。
「ひどいなあ。Misskeyでもこんなことやる奴いるんすねえ」
 プードル系獣人で万引きGメンのチェンが腕組みしながら舌打ちする。ポロシャツにスキニーデニムと軽やかな格好になっていたが、腕や首筋の毛はプードルらしく縮れて、見るからに暑そうだった。
 半袖の制服の腕を掻きながら、ドーベルの部下でライオン系獣人の澤部が警備室のマルチモニターに映し出される監視カメラの映像をチェックしている。
「見つかった、こいつだ」
 動画の一時停止ボタンを押して、澤部が画面を指さす。そこには、男性と思しき背丈の犬の獣人が、玩具コーナーの棚からバービー人形を掴み、人気のないタイミングでそれを破壊してまた棚に戻す姿が克明に映し出されていた。
「柴犬系だ」
 澤部が画面を指さしながら、スロー再生のボタンを押す。
「日本人かなあ、やっぱあ」
 ゆっくりと移動する男を見つめながらチェンが言うと、ドーベルは首を振った。
「分からない。元Twitterのドージコインに影響された可能性もある」
 Misskeyにいるミスキストたちは自分の容姿を好きな形に変えられる。ドーベルがドーベルマンの姿に、チェンがプードルの姿を自分で選び取るようにして、この犯人も柴犬の姿を選び取ったのだろうが、理由はもちろん、今回の犯行と容姿が関係があるかどうかも分からない。
 手持ちの証拠をそろえて、ドーベルたちはモデレーターが来るのを待った。澤部は報告書をPCで書き、チェンはまたフロアに戻って万引き犯を探しに行く。本社やスーパー偉業の運営部からの書類に目を通しながら、ドーベルはコーヒーを飲み、ぼんやりと窓の外を眺める。
 Misskeyのほとんどのサーバーは日本に置かれている。このスーパー偉業のサーバーも日本にある。日本の法の下に運営されている場所で、ドーベルは異邦人として職を得ていたことに、自身でも不思議な気分になることが多々あったのだった。
「ドーベルさん、訊いてもいいすか」
 PCの手を止めて、澤部がドーベルに訊いてくる。
「内容による」
 ドーベルがそう返すと、澤部は少し目を泳がせたあと、やはり訊いてきた。
「ドーベルさんって、アメリカ人ですよね」
「そうだよ」
「兵隊さんだったんですよね、しかも」
「うん、海兵隊」
 そこまでドーベルが答えると、少しためらいがちに、澤部は質問を重ねた。
「その立場から見て、第二次世界大戦の核爆弾の使用って、どうお考えになります?」
 その質問はドーベルにとっては、過去にたくさん、様々な場所で訊かれてきたことだった。そして、様々に自分なりの答えを用意してきたが、このときは、「日本用の回答」でドーベルは答えた。
「俺、ゲルマン系なんだよ。戦後に爺さんがアメリカに渡って来たんだ」
「……ああっ」
 ドーベルの言葉に澤部は数瞬の間をおいたあと、絞られるような声を上げ、深々と頭を下げた。
「すいません」
 ドーベルは澤部のたて髪が豊かな頭を眺めながら、首を傾げるような、横に回すような、微妙な角度に頭をかたむけた。
「日本では職場での、政治と宗教とベースボールの話は避けるって聞いてたんだけど」
「すみません、本当にすみません」
 澤部はPCのデスクから身を引き、立ち上がって最敬礼してみせる。ドーベルはそれを止めるでもなく、そのままにして澤部に言う。
「そういう難しい話を避けたくてMisskeyに来てる人もいるから、気をつけてな」
「ごめんなさい」
「もういいよ。さっさと書くもの書いてくれ」
 ドーベルが言うと、澤部はぐっと頭をもう一段下げたあと、頭を上げて、神妙な顔でPCに向かった。
 Misskeyにも8月6日は来る。8月9日も、8月15日も、1月17日も3月11日も来る。その一方で、5月9日も、9月11日も来る。もっと言ってしまえば12月24日だって1月1日だってMisskeyには来るし、366日にわたって何らかの日が来るのだ。
 悲しみは尽きない。それは366日間のいずれかに起こる。その日を記憶しながらも、私たちは前に進まなければならない。前を進む勇気をくれるのは、ときに趣味だったり、ときに仕事だったりする。ドーベルにはありがたいことに、Misskeyでの仕事があった。
 手元の書類にサインしながら、ドーベルは、今日の日付をじっと見つめて、しばらくまぶたを閉じたあと、両手のひらの肉球を撫で合わせながら、また仕事に戻るのだった。
#スーパー偉業のドーベルさん #MisskeyWorld

:[email protected]: 2

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*SS怪文書連作「MisskeyWorld」のご紹介* 小林素顔です。SS怪文書を書いております。 現在、MisskeyやFediverseを都市のように描いた#MisskeyWorld という世界観でSSを連作しております。 Misskey.ioのローカルタイムラインを繁華街に見立てた「カフェテラスMisskeyio」や、Misskeyに建つショッピングモールを舞台にした「スーパー偉業のドーベルさん」、ウ○ト○マン風ヒーロースペクタクル「ムラカミマン」、ミリタリ風味BLの「スナイパー・ロンとスポッター・リー」などをMisskey.ioで連載しております。 皆様お時間がございましたら、お暇なときにぜひご高覧ください。 #カフェテラスMisskeyio #スーパー偉業のドーベルさん #ムラカミマン #スナイパー・ロンとスポッター・リー

:[email protected]: 3

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*SS書きの小林素顔です。* みすでざでは、Misskeyに建つショッピングモール「スーパー偉業」を舞台にした#スーパー偉業のドーベルさん や、ミリタリ風味BLSSの#スナイパー・ロンとスポッター・リー などを連載しています。Misskey.ioでは#カフェテラスMisskeyio というシリーズも連載しています。お時間がございましたら是非ご覧ください。よろしくお願いいたします。 https://misskey.design/clips/9fn02o8927 https://misskey.design/clips/9eqh7b5u1z https://misskey.io/clips/9ciorctwlh
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CW: #二次創作 #カフェテラスMisskeyio 【自死未遂表現あり】私と、ドーベルマンの獣人の話


 ひょっとしたら、ひとに平手で殴られたのは初めてかもしれない。私が幾度となく自死に臨んで失敗するたびに周囲の人は悲しんだが、こうして叱ってくれることは無かったと思う。その男の、赤の他人を殴ることに抵抗がなかったことにも驚いたが、自死に臨もうとする私を、何のためらいもなく助けようとしたこともある種の驚きだった。
「目え覚ませ、死のうってんならキチンとした死に場所があるだろう」
 目の前のドーベルマンの顔をした獣人は、なぜこの八階建てのビルの屋上にいたのだろうか。私ひとりでひっそりと訪れたはずの場所になぜか居合わせた、白いTシャツにブラックデニムのドーベルマン男は、Misskey.ioのローカルタイムラインの表通りを見下ろせるこの場所で、屋上のフェンスの上に登った私を背中から抱え、床に投げ、私の頬をはたいたのだ。
「死に場所」
「そうだ。ここは人の死ぬ場所じゃない。ここはTwitterじゃない」
 そう言って、ドーベルマン男は私の上半身を起そうとする。足に力が入らない私に、ドーベルマン男は胡坐をかいて腕組みして横に座る。
「いいか。よく知らないが、大丈夫なんだ」
 その言葉に、私は震える手をさすりながら反論する。
「よく知らないのに、大丈夫だと分かるのか」
「ああ、分かる。あんたも年取ってるだろ。少なく見積もっても中年だ、俺と大差ない。年取ってるならわかるはずだ。今まで大丈夫だったんだから、今度も大丈夫だって」
 ドーベルマン男は鼻息荒くそう言って、ぱしん、と私の肩を肉球の付いた手で叩く。
「俺が大丈夫だって言うんだから大丈夫なんだ。ひとから大丈夫だと言われたらそれを疑うのは失礼なはずだ。大丈夫だってんだから大丈夫だ。分かるな?」
 ドーベルマン男は私の顔の目前にマズルを近づけて、じっと見つめて言った。
「分かった」
 私は選択肢もないままにそう返すと、ドーベルマン男は深くうなずいた。
「そうだ」
 ドーベルマン男は胡坐のまま深呼吸すると、.io特有の、翠色と碧色がグラデーションになった空に身を反らして、目をつむった。インターネットの最果てから電子の風が柔らかく吹いている。私の冷や汗を乾かしながら。ドーベルマン男の毛並みを撫でながら。
「何があったかは訊かないよ。俺だって色々あったし」
 男は空を見上げたまま言う。
「俺はもともと兵隊でさ。生きていたいのに死んでったやつをたくさん見てきたんだ。で、兵隊辞めたあとは、死にたがってるやつもたくさん見た。俺自身が死にたくなった時もあった。そりゃもう沢山な。――何が言いたいかっていうと」
 ドーベルマン男が私のほうに首を傾げて、横目で見つめながら、言った。
「死っていうのは伝染するんだ。自分が身勝手に死んでしまうと、死んでほしくない、大切な人の死期まで早まってしまう。俺はそれが我慢できないから、あんたを助けた。あんただって、死んでほしくない人がいるだろう?」
 その言葉は、私を無条件にうなずかせた。
「いる」
 私が返すと、ドーベルマン男は微笑んで、その場から立ち上がった。
「なら、そういうこった」
 ドーベルマン男がこちらに手を伸ばし、私はその手を取って立ち上がる。少しめまいはするが、足の震えも収まり、しっかりと立つことができる。
「なんか食えるか? 金はある?」
「金ならある、まだね」
 私が返すと、ドーベルマン男は唇を噛みながら軽くうなずく。
「まだ、か。まあ、俺も金には恵まれないけど、金で幸せは買えないから。大丈夫だ。大丈夫だって言葉も金で買えない。だから、大丈夫だ、って、俺はここであんたに言うよ」
 男の仕草に、私は少し不思議に思って言った。
「どうしてそんなに大丈夫だと強く思えるんだい?」
 その問いに、ドーベルマン男はカラカラと笑って答える。
「理由なんてないよ。でも大丈夫だと思わないと、大丈夫にできないだろう? ダメだダメだなんて戦場で考えてたらビビッて敵陣突っ込めない、立ちすくんでる奴から頭を撃ちぬかれるんだ。だから、絶対に大丈夫だっていう気持ちでいないとすべてダメになる。それでもダメなら、そのときは神様からのバケーションのプレゼントを受け取るだけさ」
 男がそう言って噛みしめるようにうなずく姿に、私の体は、緊張がほどけていく感覚を覚えた。
「バケーションから戻れる日はあるかな?」
 私が訊くと、ドーベルマン男は両手の肉球を擦り合わせながら少し考えたあと、言う。
「戻れなかったらバケーションの地で仕事を見つけりゃいいさ」
 ドーベルマン男と、私の笑い声がリンクして、ビルの屋上に響き渡った。目下のローカルタイムラインの表通りを、にゃんぷっぷーのチャンネルを広告するアドトラックが徐行で進んでいき、歩道を行くミス廃たちがそのトラックに「かわいい」「かわいい祭り」とカスタム絵文字を大量に投げつけていた。
「ありがとう。どうせなら夕飯をご馳走するよ」
 私が言うと、ドーベルマン男は私のほうを指さして「それだよ」と示してみせる。
「余裕が出てきたな。でも俺は先を急ぐから。気持ちだけもらっておく」
「名前を聞いても?」
「名乗るほどのもんじゃないよ」
 ドーベルマン男は首を振ると、屋上のドアのほうに向かって歩き出した。
「ああ、それと」
 突然そう言って、ドーベルマン男は振り向き、厳しい表情で私を見据える。
「もう次、自分から死のうとするなら、ひとから助けられることは無いと思って生きな」
 私はその表情を今でもはっきりと覚えている、その狩人のような表情から、ぱっと明るい表情になったドーベルマン男は、敬礼の手つきで挨拶して、屋上のドアからビルの階下へ降りていった。
 Misskey.ioのビル群の向こうに真珠色の夕日が沈もうとしている。ローカルタイムラインの表通りは日曜日で、迫る月曜日への怨嗟の声がカスタム絵文字となって淡い翠色と濃い碧色のグラデーションを成す空に浮上していく。私は再び来たる新しい日々に向けて歩き出すため、カフェテラスMisskey.ioで夕飯を取ろうと、歩き出したのだった。
#カフェテラスMisskeyio #スーパー偉業のドーベルさん #MisskeyWorld
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CW: #二次創作 #スーパー偉業のドーベルさん ドーベルさんと、路上演説家


 Misskeyの高原に麗しく建つショッピングモール「スーパー偉業」。
 生鮮食品売り場では家族連れが今晩の献立やおやつを見繕い、フードコートでは若い恋人たちがフライドポテトを分け合い、おもちゃ売り場で駄々をこねる子供を両親が叱ったりあやしたりしていた。
 そんなスーパー偉業には善良な人ばかり来るわけではない。万引きは絶えず起こり、返金詐欺を企むクレーマーや、児童を拉致しようと企む悪漢も現れる。警備員はそうした人間を未然に察知して、現行犯で捕らえるために日々警戒を怠らず店内を見守り、楽しいスーパー偉業のショッピングの守護者として職務にあたっている。
 しかし今日、警備員室にやってきた問題利用者は、警備主任のドーベルにとっては非常に難物だった。人間で、四十代ぐらいの、良く言えばノームコア、どちらかといえば平凡に過ぎるような姿の、印象に残りづらい男が、不機嫌そうに机を挟んで目の前で腕組みし、椅子にふんぞり返っている。
 ドーベルマン系獣人のドーベルは、ライオン系獣人の部下の澤部と共に、目の前の男を店舗入口のひらけた場所で確保した。店側に許可なく演説を行っていたからだった。
「お客さん、別に貴方の考えに反対してるわけでも無いんですよ」
 澤部が困り果てて言うのに、男は眉間から音がしそうなほどに睨みつけて、言う。
「じゃあ賛成ということだな?」
「.ioは『あらゆる』陰謀論や急進思想の『普及』に対して『懐疑的』ということだけは言っておきます」
 ドーベルが言うと、男は鼻で笑った。
「考えてるだけならいいってことか?」
「貴方はここの店舗で実際に演説したでしょう。営業妨害なんですよ。店頭であんな大きな声で怒鳴られたら」
 書類に視線を落としたままドーベルが言うのに、男は机に身を乗り出して、顔を近づけてくる。
「日本や世界を取り巻く状況に対してMisskeyの住人は鈍感に過ぎる。危機的状況から目を逸らしてはいけない。私が啓蒙してやろうというのに」
「そういうのは選挙出てやってくださいね」
 一向に相手にせずにドーベルが言うのに、男は勢いよく椅子に戻ってまた背もたれに身を任せる。
「そんなだから駄目なんだ、あんたら。いまに滅びの思想が蔓延するぞ」
 澤部とドーベルに順に指を差してそう言うと、男はケラケラと笑って見せる。澤部が溜息混じりに立ち尽くす横で、椅子に座って男に正体するドーベルは、書類から視線を上げて、男をじっと見つめて言う。
「思想の滅し合いから遠く逃げてきた人々の街がMisskeyなのだけどね」
 その視線を待っていたのだろう、男はニヤリと笑って姿勢を正し、語り始める。
「いいか、あんたら。よく聞いておけ。いま人類は様々な性別を認めるべきなどと言っているが、それは富を牛耳るブルジョアグローバリストの変態趣味なんだ。本当に国家を繁栄させるつもりがあるなら本来的な男と女の在り方を守るべきなんだ」
 男の言葉に、しかしドーベルは首をかしげる。
「それって、男と女が一緒になるっていうこと?」
「当然だろう?」
「あのさ」
 ドーベルはマズルを指で掻いて、両手の肉球を揉んだあと、腕組しながら語り始めた。
「俺たちは一人で居ていいんだよ。誰かと一緒に居なければならないなんて余計なお世話なんだ。あらゆる結婚の形を認めようとか、パートナーのどちらかが出世を諦めなければならないとか、それらへの賛成反対とか。そういうのは『二人になる』ことが正しいとすることから起こる『こじれ』なんだと、俺は思うんだ。確かに独りは寂しいけれど、独りでいることは何にも罪じゃないし、誰かに批判されるものでもないんだ。二人で居たっていいし、一人で居たっていいんだよ」
 ドーベルが言うと、男は舌打ちして首を振り、手のひらを横に振り、呆れたと言いたげに天を仰いだ。
「そんなの偽善だ。正しいのは男女が配偶して二人以上の子を成して安定的に国家を成長させることだ。そうでなければ戦争に勝てない。目の前に近づいているものに目を逸らしつづける気か?」
 男が語気を荒くしても、ドーベルは動じない。
「戦争は勝つものではなく避けるものだろう。そんなことも勉強してこなかったのか」
「じゃあ避ける方法はなんだ? あんたの考えでいい、それはなんだ?」
 そう言われて、ドーベルは溜息ひとつ、首を傾げて、悪童を諭す宣教師のように寂しい笑いを浮かべる。
「奪わずに、与えることだ」
「与えるものが無い者は何をすればいい? 奪ってでも与えるか?」
「『ありがとう』といえばいい。挨拶とは持たざるものでも人に与えられる愛のかたちだ。そして」
 ドーベルは手のひらを目の前に出し、しばらく黙る。すると、上を向いた手のひらの中に、光の粒子が結晶するように集まっていく。
「それにカスタム絵文字という形を与えたのが、しゅいろさんだ」
 ドーベルの手の中に現れた「ぼちぼちいこうね」のカスタム絵文字は、小さく放られたあと、目の前の男の額に当たって、すっと吸収されていった。男はしばらくドーベルを睨んだあと、深い溜息をついて、椅子にうなだれた。
「これだからミスキストは嫌いだ」
 通報を受けたモデレーターによって男の身柄は運営に運ばれていった。スーパー偉業で悪徳を働く者が向かう末路。いつものこと。しかし、今日のドーベルにとっては、少し心に引っかかること。
「ドーベルさん」
 警備員室のPCで書類をまとめていた澤部が、横目でドーベルに声をかける。
「どうした」
「さっきの、男と話してたじゃないですか」
「うん」
 監視カメラの画像を眺めるドーベルに、澤部は少し躊躇い気味に訊く。
「ドーベルさんも、あれなんですか、……LGBTQなんとかってやつなんですか?」
 その問いに、ドーベルは即答する。
「違うよ。子供いるけど、嫁さんと別れて、今は一人って、そういうこと」
 その言葉に、澤部は気まずそうに頭を下げる。
「すみません」
 その仕草が滑稽で、ドーベルは思わず笑ってしまう。
「でも、それでなくてもさ。いいんだよ。人生の最初から最後まで独りだって構わないんだし、それを許さない世の中の方が遅れてるんだ。俺はそう思うよ」
 Misskeyの高原の地平線に真珠色の太陽が沈み、スーパー偉業に夜が訪れようとしてた。それはミスキストにあまねく降り注ぐ夜である。
 言葉とは、在りもしない物がさも有る物のようにして人を騙す恐ろしい力を持つが、それは同時に、全くの無から希望を生み出す力もあるという証左である。後者を知る人は今のところ、Misskeyに集まっているようだった。
 あらゆる人にあらゆる孤独がある。それをそのまま認められたらいいのに。その可能性がある場所として、Misskeyはありうるのではないか。今日もスーパー偉業の警備員室で、ドーベルはそんなことを思うのだった。
#スーパー偉業のドーベルさん #MisskeyWorld

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#MisskeyWorld メインキャラ人気投票をやってみる…(自作がどれだけ皆さんに知れ渡っているかのテストを兼ねて) #カフェテラスMisskeyio #スナイパー・ロンとスポッター・リー #スーパー偉業のドーベルさん

投票

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  • リアクションシューター: 0票
  • カフェテラスの店主: 0票
  • リー(ライナス・シモンズ): 0票
  • ロン(ロナルド・マクバーニー): 0票
  • ヨハン・ドーベル: 0票
  • チェン・ミーラン: 0票
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  • その他(リプライで追記): 0票
  • 小林: 0票

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