:seibun_hyouji:会話がちょっと

親ノートと同じ時空のエディカト。
エディは表向き諜報員を辞めて製薬会社の営業マンをしており、カートは現役バリバリの諜報員、という立場です。
#エドワードとカーティス #ソヨ宅カーティス関連 #ソヨ宅エドワード関連 ---
ヒュウ、と高らかに口笛を吹き彼は車のキーを取り出す。幾つかの鍵が束ねてある大ぶりのキーリングを人差し指で一回転させ、目当てのそれを掴み取るとドアの取っ手に軽くあてがう。触れさせるだけで解錠可能なチップ内蔵の最新機種。片手でそのまま取っ手を引くと、もう片方の手に提げていたブリーフケースを助手席へ放る。長身を折り曲げるように運転席へと滑り込み(その車は十二分に大きな造りをしている。要するに、彼の背丈があまりにも規格外なのだ)、電源へ再びキーを当てようと腕を伸ばしたところで彼は異変に気づいた。背後、誰かが笑う。
「暑いな、外は。冷やしておいたぞ」
ルームミラーにて後部座席を確認。一瞬警戒を宿した瞳はすぐに和らぎ——あるいは、和らいだ《《かのように》》繕い——すぐに表情を戻す。ハンドルに手を置きながら、鏡越しに彼は尋ねた。
「気が利くねカート、久しぶり。ところで君は連絡をとって待ち合わせするって芸当はできない?」
「サプライズってヤツだ、嬉しいだろ? 少しは驚けよ、隠れた甲斐がない」
「やだなあこれでも度肝抜かれて膝ガクガクになったんですけど! 見えない? ほら。怯えた子鹿のよう」
「微動だにせずによくもまあ。……相変わらずだな、エドワード」
普段用いる愛称を敢えて避けた様子のその人は、暗いネイビーのスラックスに包まれた長い脚をそっと組み替えた。運転席に座る彼、——先程【エドワード】と呼ばれた金髪の男——は見慣れている筈のその瞳のあまりの青さに、そっと息をつく。《ホント、いつ見ても嘘くせェ。食紅かなんかで染めてんじゃねえの?》
「それで、今回は何の用? もしかして我が社の新製品を導入したくなったとか! ちょうど近ごろ麻酔薬の開発中でね試作品を是非とも君らに、」
「営業は結構。その辺りの用事なら俺ではなくて弟が来るよ、わざわざ俺が訪ねてきたのはもう少し“込み入った”話だからだ。察しはつくな?」
「僕そういう言外のコミュニケーションって苦手なんだよねえ。ハッキリ言ってくれないかな、『善良な一般市民の僕をクソ厄介な国家機密に巻き込みに来た』って」
「ほら、分かってるじゃないか。話が早くて助かるね」
「良心の呵責とかないの? 製薬会社の一営業マンを銃撃戦に晒すだなんて、プロとしてどうなんですかねえ。人道に悖《もと》る!」
「呵責? どうして。俺がお前に」
カーティスは身を乗り出すと唇をやんわりとたわめ、背凭れ越しに【彼】の身体を抱きしめるように手を這わせる。【彼】の耳元に口を寄せ、鼻にかかった声で、ささやく。
「嬉しいくせに。“僕”と一緒に命懸けのお遊びするの、好きでしょう?」
依然としてミラー越しに視線を投げつつ《彼》もまた、僅かにその表情を変えた。両の碧眼に光が射して緑が一層強くなる。微かに上がった眉と唇は、同じだけ微かに歪んでもいる。返す言葉の底が笑っている。
「一体全体お前は《俺》に何させたいんだ? ゴシュジンサマ」
「詳細はあとで。まずは車を走らせて、何処でもいいから、誰もいないとこまで」
「そんなとこ行ってどうすんだよ」
「《《言わせないでよ恥ずかしい》》。僕は息抜きも兼ねて来たんだ、旧友に会いにね。後は分かるね?」
「……息抜き、ねえ……」
呆れた風に溜め息を吐くがまんざら嫌というでもない。レバーをDに入れアクセルを踏むと、既にエンジンのかかっていた車両はスムーズに動き出した。青年は後部座席へ戻り、しっかりとシートベルトを締める。
「慎重に運んでくれよ。お前の運転は荒すぎる」
「ハイハイ。名家の御子息を乗せて暴走運転はしませんよ、これでも仕事中は制限速度守る主義なので!」
「何を偉そうに。常に遵守しろ」
窘める口調に相反し、実に楽しげに青年は応えた。窓外を見遣る。燃えるような緑。何とも快い夏の午後——