CW: #リアクションシューティングガール_journal #6 人類の九割は駆け引きが苦手、その上、恋なんて
「雑賀朔、わたしと勝負して」
Misskey.ioのローカルタイムラインの表通りに面したカフェテラスでココアを飲んでいると、突然話しかけられることがある。それは知り合いのときもあるし、見知らぬひとのときもある。
雑賀朔──リアクションシューティングを鍛え上げた地雷系ウエスタン少女──も今まさにその状況で、テラス席で問題集を解いていたら、全身ブルーのスペースマタギ少女──L-リディアに話しかけられた(以前決闘を申し込まれているので初対面ではない)。
「今度はなにで?」
呆れながら雑賀朔が訊くと、L-リディアは腕に抱えたブルーとイエローのライフル──彼女がリアクションを「撃ち込む」ための得物──を目の前に掲げ、鼻息荒く答えた。
「もちろん、またリアクションシューティングで」
雑賀朔は頭を抱えながら、L-リディアに同席を促す。
「まずそのライフル置いて、ね」
L-リディアが睨み返しながらも、ライフルをテーブルに置き、素直に席についたので、雑賀朔は問題集を閉じて、諭すように言う。
「リアクションはひとと競うものじゃないと思うよ。誰かの投稿に急いで駆けつけるものではあるかもしれないけど。勝負するなら、そうだな、雀魂は?」
雑賀朔の提案に、L-リディアは首を振る。
「麻雀わかんない」
「じゃあ、勝負にこだわらなくてもいいなら、絵チャとか」
「やだ。わたし、絵下手だし」
拒否を重ねるL-リディアに雑賀朔はため息を吐きそうになるのを堪えて、天を仰ぐ。すると、表通りの歩道の向こうから、顔面二次元コードの青年──コカコードが近づいてくるのが見えた。
「おー! 朔ちゃんリディアちゃん一緒なんだ!」
目元が二次元コードで覆われ、バーコード模様の漢服までモノトーンで統一された青年は、いつものように朗らかな挨拶で現れた。
「あ、コカくんこんちは」
「コカくん?」
雑賀朔が軽く挨拶を返した横で、L-リディアが鋭い語勢で疑義を表す。
「ん?」
雑賀朔は首を傾げたが、L-リディアは黙って睨むばかり。しかしその二人の様子を目の当たりにしながら、コカコードは気付きもしないのか、カフェテラスのフロアスタッフにホットコーヒーを頼む。
「二人とも友達なんだ?」
コカコードの質問に返答を迷って、雑賀朔はL-リディアの方を一瞥したが、L-リディアは上目遣いでコカコードを見つめたまま黙っていた。
「ともだち、かな」
雑賀朔がそう言って首を傾げると、コカコードは口元をニッコリさせて、テーブルに同席した。
「へえ、いいじゃん二人でお茶なんて。なに話してたの?」
「いや、とくには。雑談?」
雑賀朔がそう返したのに間を入れず、コカコードは取り出したスマホをスワイプしながらL-リディアの方を向く。
「あそうだ、この前引用リプしてくれたあのポエム、調べたらすごい有名な詩人のパロディなんだね」
コカコードの言葉に、L-リディアの表情がパッと明るくなる。
「うん、そう! 山村暮鳥」
「すごい勉強になったよ、面白いね、ありがとう!」
コカコードの言葉を噛み締めるように、L-リディアは深く頷いて、微笑んだ。その様子を眺めながら、雑賀朔は、自分の胸の奥底が騒つく理由が分からずに動揺していた。
「ヤバ」
スマホをスワイプしていたコカコードが突然そう呟いて立ち上がると、雑賀朔とL-リディアを交互に見ながら言う。
「ごめん、編集さんからメールが来た。チャンスかも、忙しくなるな。また今度ね!」
言い残して小走りにカフェテラスから去っていくコカコードを、雑賀朔は手を振りながら見送ったあと、L-リディアに向き直った。
「リディアさん? さ」
「なに」
真顔で応じるL-リディアを、雑賀朔はじっと見据えて訊く。
「コカくんのこと、好きなの?」
すると、L-リディアは歯ぎしりしながら耳まで顔を赤らめて、雑賀朔を睨んだ。
「悪い?」
その時の雑賀朔の感情は複雑だった。L-リディアの恋心を目の当たりに知って、彼女を応援したいと思う気持ちと同時に、なぜか、コカコードからの自分への好意を、奪われたくない、と雑賀朔は思ってしまった。
結果としての回答は、
「カッコいいよね、コカくん」
だった。果たして本心からコカコードの見目を良いと思っていたか分からなかったのに、雑賀朔はそう言ってしまった自分に驚いていた。
雑賀朔の言葉に、L-リディアは目元を拭い、鼻をすすりながら、言う。
「絶対負けないから、絶対」
L-リディアに言われて雑賀朔は、コカコードへの気持ちが輪郭を伴ってはっきりしてくるのを感じていた。
「いいよ、望むところだよ、勝負してあげるよ」
我ながら信じられない言葉が次々に出てくると雑賀朔は感じていた。L-リディアは完全に挑発だと受け止めて、眉間に皺を寄せていた。
「『してあげる』だとォ、上からこの野郎ォ」
L-リディアはその場で立ち上がり、目の前のライフルを掴んだが、ゆっくりとまたテーブルに置いて、荒い呼吸で雑賀朔に訊く。
「確認なんだけど、あんたはコカコードさんのこと、好きなの?」
「好きだよ。コカくんも好きだし、リディアちゃんも好き。相互さんみんな大好き」
努めて笑顔で雑賀朔は答えると、L-リディアは舌打ちして声を張った。
「黙れよ綺麗ごと抜かすなァ、私はコカコードさんのこと、あんたよりずっと大好きなんだ!」
「みんなに優しいからね、コカくん」
心中はどきどきしながら精一杯の余裕ある素振りで雑賀朔が受け流すと、L-リディアはまたライフルをギュッと抱きしめて、言う。
「お前絶対潰すから覚悟しとけよ」
「セルフモデレーションはMisskey.ioでは禁止されてるよ」
雑賀朔のその言葉に、L-リディアはライフルを構えて、至近距離からリアクションを「撃ち込んだ」。「死」「許さない」「人の心とかないんか?」といったリアクションを撃ち込まれて避けもせず受け止めて、涼しい顔で見つめ返す雑賀朔に、L-リディアは地団駄を踏む。
「ン゛ニ゛ャ゛ー! ク゛ニ゛ャ゛ク゛ニ゛ャ゛ー! ニ゛ャ゛ー!」
「猫みたいでかわいいね」
そう言って雑賀朔はカラカラ笑って、L-リディアは憤然としながらテーブルに突っ伏す。運ばれてきたホットコーヒーは宛てもなくテーブルに置かれ、周りのテラス席の客たちはそんな二人を気にもせず各々の話に夢中。表通りはミスキストの投げ合うリアクションが途切れなく咲いている。
ioのサーバーの街も、他のMisskeyサーバーの街も、ひいてはFediverseのあらゆるサーバーの街も、決して安泰ではないが、日常はつねにそこにあり、タイムラインには弛まなく住人たちの消息が流れていた。
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