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CW: #リアクションシューティングガール_journal #6 人類の九割は駆け引きが苦手、その上、恋なんて

「雑賀朔、わたしと勝負して」

 Misskey.ioのローカルタイムラインの表通りに面したカフェテラスでココアを飲んでいると、突然話しかけられることがある。それは知り合いのときもあるし、見知らぬひとのときもある。

 雑賀朔──リアクションシューティングを鍛え上げた地雷系ウエスタン少女──も今まさにその状況で、テラス席で問題集を解いていたら、全身ブルーのスペースマタギ少女──L-リディアに話しかけられた(以前決闘を申し込まれているので初対面ではない)。

「今度はなにで?」

 呆れながら雑賀朔が訊くと、L-リディアは腕に抱えたブルーとイエローのライフル──彼女がリアクションを「撃ち込む」ための得物──を目の前に掲げ、鼻息荒く答えた。

「もちろん、またリアクションシューティングで」

 雑賀朔は頭を抱えながら、L-リディアに同席を促す。

「まずそのライフル置いて、ね」

 L-リディアが睨み返しながらも、ライフルをテーブルに置き、素直に席についたので、雑賀朔は問題集を閉じて、諭すように言う。

「リアクションはひとと競うものじゃないと思うよ。誰かの投稿に急いで駆けつけるものではあるかもしれないけど。勝負するなら、そうだな、雀魂は?」

 雑賀朔の提案に、L-リディアは首を振る。

「麻雀わかんない」

「じゃあ、勝負にこだわらなくてもいいなら、絵チャとか」

「やだ。わたし、絵下手だし」

 拒否を重ねるL-リディアに雑賀朔はため息を吐きそうになるのを堪えて、天を仰ぐ。すると、表通りの歩道の向こうから、顔面二次元コードの青年──コカコードが近づいてくるのが見えた。

「おー! 朔ちゃんリディアちゃん一緒なんだ!」

 目元が二次元コードで覆われ、バーコード模様の漢服までモノトーンで統一された青年は、いつものように朗らかな挨拶で現れた。

「あ、コカくんこんちは」

「コカくん?」

 雑賀朔が軽く挨拶を返した横で、L-リディアが鋭い語勢で疑義を表す。

「ん?」

 雑賀朔は首を傾げたが、L-リディアは黙って睨むばかり。しかしその二人の様子を目の当たりにしながら、コカコードは気付きもしないのか、カフェテラスのフロアスタッフにホットコーヒーを頼む。

「二人とも友達なんだ?」

 コカコードの質問に返答を迷って、雑賀朔はL-リディアの方を一瞥したが、L-リディアは上目遣いでコカコードを見つめたまま黙っていた。

「ともだち、かな」

 雑賀朔がそう言って首を傾げると、コカコードは口元をニッコリさせて、テーブルに同席した。

「へえ、いいじゃん二人でお茶なんて。なに話してたの?」

「いや、とくには。雑談?」

 雑賀朔がそう返したのに間を入れず、コカコードは取り出したスマホをスワイプしながらL-リディアの方を向く。

「あそうだ、この前引用リプしてくれたあのポエム、調べたらすごい有名な詩人のパロディなんだね」

 コカコードの言葉に、L-リディアの表情がパッと明るくなる。

「うん、そう! 山村暮鳥」

「すごい勉強になったよ、面白いね、ありがとう!」

 コカコードの言葉を噛み締めるように、L-リディアは深く頷いて、微笑んだ。その様子を眺めながら、雑賀朔は、自分の胸の奥底が騒つく理由が分からずに動揺していた。

「ヤバ」

 スマホをスワイプしていたコカコードが突然そう呟いて立ち上がると、雑賀朔とL-リディアを交互に見ながら言う。

「ごめん、編集さんからメールが来た。チャンスかも、忙しくなるな。また今度ね!」

 言い残して小走りにカフェテラスから去っていくコカコードを、雑賀朔は手を振りながら見送ったあと、L-リディアに向き直った。

「リディアさん? さ」

「なに」

 真顔で応じるL-リディアを、雑賀朔はじっと見据えて訊く。

「コカくんのこと、好きなの?」

 すると、L-リディアは歯ぎしりしながら耳まで顔を赤らめて、雑賀朔を睨んだ。

「悪い?」

 その時の雑賀朔の感情は複雑だった。L-リディアの恋心を目の当たりに知って、彼女を応援したいと思う気持ちと同時に、なぜか、コカコードからの自分への好意を、奪われたくない、と雑賀朔は思ってしまった。

 結果としての回答は、

「カッコいいよね、コカくん」

 だった。果たして本心からコカコードの見目を良いと思っていたか分からなかったのに、雑賀朔はそう言ってしまった自分に驚いていた。

 雑賀朔の言葉に、L-リディアは目元を拭い、鼻をすすりながら、言う。

「絶対負けないから、絶対」

 L-リディアに言われて雑賀朔は、コカコードへの気持ちが輪郭を伴ってはっきりしてくるのを感じていた。

「いいよ、望むところだよ、勝負してあげるよ」

 我ながら信じられない言葉が次々に出てくると雑賀朔は感じていた。L-リディアは完全に挑発だと受け止めて、眉間に皺を寄せていた。

「『してあげる』だとォ、上からこの野郎ォ」

 L-リディアはその場で立ち上がり、目の前のライフルを掴んだが、ゆっくりとまたテーブルに置いて、荒い呼吸で雑賀朔に訊く。

「確認なんだけど、あんたはコカコードさんのこと、好きなの?」

「好きだよ。コカくんも好きだし、リディアちゃんも好き。相互さんみんな大好き」

 努めて笑顔で雑賀朔は答えると、L-リディアは舌打ちして声を張った。

「黙れよ綺麗ごと抜かすなァ、私はコカコードさんのこと、あんたよりずっと大好きなんだ!」

「みんなに優しいからね、コカくん」

 心中はどきどきしながら精一杯の余裕ある素振りで雑賀朔が受け流すと、L-リディアはまたライフルをギュッと抱きしめて、言う。

「お前絶対潰すから覚悟しとけよ」

「セルフモデレーションはMisskey.ioでは禁止されてるよ」

 雑賀朔のその言葉に、L-リディアはライフルを構えて、至近距離からリアクションを「撃ち込んだ」。「死」「許さない」「人の心とかないんか?」といったリアクションを撃ち込まれて避けもせず受け止めて、涼しい顔で見つめ返す雑賀朔に、L-リディアは地団駄を踏む。

「ン゛ニ゛ャ゛ー! ク゛ニ゛ャ゛ク゛ニ゛ャ゛ー! ニ゛ャ゛ー!」

「猫みたいでかわいいね」

 そう言って雑賀朔はカラカラ笑って、L-リディアは憤然としながらテーブルに突っ伏す。運ばれてきたホットコーヒーは宛てもなくテーブルに置かれ、周りのテラス席の客たちはそんな二人を気にもせず各々の話に夢中。表通りはミスキストの投げ合うリアクションが途切れなく咲いている。

 ioのサーバーの街も、他のMisskeyサーバーの街も、ひいてはFediverseのあらゆるサーバーの街も、決して安泰ではないが、日常はつねにそこにあり、タイムラインには弛まなく住人たちの消息が流れていた。
#リアクションシューティングガール #リアクションシューティングガール_journal

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CW: #リアクションシューティングガール_journal #5 リアクション・マタギ・ガール現る

 お節介だとか、ありがた迷惑だとか、行き過ぎた優しさが嫌われる世の中で、Misskeyサーバーの街でリアクションを投げ込む行為は、みんなが好き勝手に優しさを行使できる「救いたい気持ちの救い」だった。

 だから、今日もMisskey.ioのローカルタイムラインの表通りで飛び交うカスタム絵文字の数々は「WIN-WIN」だったりする。

「こんちはー」

 表通りに面した建物で運営されるシューティングレンジはリアクションシューティング(リアクションを素早く正確に撃ち込む技術)の練習に最適だ。ピンク髪の地雷系ウエスタン少女──雑賀朔は今日もガンベルトにリアクションシューティング用のリボルバーを差して颯爽とレンジのインストラクターに挨拶する。といっても、このレンジには金髪の青年「リー」と、黒髪の青年「ロン」しかインストラクターはいないのだけど。

「お客さん待ってるよ」

 カウンターに座っていたのは今日はリーだった。

「だれ?」

 このレンジを訪ねてくる来客なんていないと思っていたから、雑賀朔は目を丸くしてリーに訊き返す。

「いや、知らないひと」

 リーに肩をすくめられて、雑賀朔は思わず首を傾げながら、レンジの奥へと進んだ。すると、いつも閑古鳥が鳴いてるこのレンジには異質な、明らかに自分への来客と思しき姿の女性がいた。

 まず目につくのは、獣耳付きの帽子と、肩と腰に巻かれた毛皮で、それらはモンスターズ・インクのサリーみたいなライトブルーの毛並みだった。それをラテックスのような光沢素材のビスチェとショートパンツの上から纏って、同じくロンググローブとロングブーツも艶々と光沢を湛えていた。それらの装いの下に着こまれた全身スーツにはチェック柄が描かれていて、全身の九割がブルーを主張している。パイピングのイエローと帽子からはみ出した金髪が、かろうじて眼を引く差し色となっていた。

 獣耳帽子の女性は自分より少し年上かなと雑賀朔には見えた。服装と同じブルーとイエローのツートンカラーのライフルをレンジのカウンターで整備していたが、雑賀朔に気がつくと、キッと目つきを鋭くして、女性は歩み寄ってきた。
 
「こんにちは。わたし『L-リディア』。いつも楽しそうね、雑賀朔」

 知らない名前だったし、しかもいきなり呼び捨てだったので雑賀朔はびっくりしつつ、手を差し伸べてきたL-リディアに恐る恐る握手を返した。

「……なんか、ご用件ですか」

 おずおず訊くと、L-リディアは腰に手を当てて胸を張ってみせる。

「今日、あなたに挑戦状を叩きつけに来た。わたしとリアクションシューティングで勝負して」

 突然の提案に、いつもならうやむやに誤魔化すのだったが、雑賀朔はその日、母親と口論になって機嫌が悪かったので、睨み返して応えた。

「早撃ち? 精度?」

「もちろん両方」

 険悪になりそうな雰囲気を察してか、レンジのインストラクターである黒髪の青年――ロンが声をかける。

「立会人なら、やるよ」

 決闘の準備が始まった。シューティングレンジの奥、学校の教室ほどの空間の手前側に、一メートル四方のシューティングボックスが白線で区切られ、ターゲット側には五枚の縦置きモニターが据えられた。

「五枚のターゲットモニターに映し出された絵文字と同じリアクションで撃ち抜く速さを競う。五枚を打ち終わって『ラン』は完走、五回のランのうち最も遅いランを切り捨てた四つのランの合計の速さを競う。ターゲットのリアクションは毎回変わるので弾のロードの速さも込みだ。それでいいな?」

 ロンの説明に、雑賀朔もL-リディアも頷いて、お互いがターゲット方向を向いて並び、ドロウやエイムの素振りを始める。L-リディアのライフルの側面には、タッチスクリーンが付いていることに、雑賀朔はいち早く気づいた。

「そのライフル、『トリガー・オブ・タオ』に出てくるやつ?」

 隣の雑賀朔から対戦型FPSの名前が出たことに、L-リディアはニヤリと微笑んだ。

「霧原樹のコラボスキンと同じカラーリング」

 L-リディアがバーチャルライバーの名前を出してきたので、雑賀朔は決して対岸の人間ではないことを察した。

 ロンのコイントスで勝ったL-リディアが先攻を選んで、決闘が始まる。

「ファーストラン、アーユーレディ、スタンバイ!」

 ロンの掛け声にL-リディアがライフルを下向きで構えて待つ。刹那、甲高いブザーが鳴って、五枚のモニターにカスタム絵文字が表示される。L-リディアは一射ごとにライフル側面のタッチパネルをスワイプして該当のカスタム絵文字を選び出し、丁寧にターゲットを狙って撃ちぬいていく。

 五回のランを走り切ったL-リディアは雑賀朔を見据えながらボックスから出て、無言で微笑んでいた。雑賀朔はホルスターに差さった二挺のリボルバーから薬莢を全て抜いて、カスタム絵文字の弾頭を外し、ガンベルトの隙間に挟んだ。

「ファーストラン、アーユーレディ、スタンバイ!」

 ブザーが鳴った瞬間、雑賀朔はホルスターから右手でリボルバーを抜き、左手でガンベルトから空薬莢を抜く。目の前のターゲットモニターに表示されたカスタム絵文字を左手の平のなかで「練り上げて」、指先で空薬莢の弾頭に固定し、リボルバーに装填して、撃つ。その一発ずつの動作を、L-リディアの一発より素早く行う姿は、鬼気迫る達人の姿だった。

 五回のランを終えた結果、雑賀朔が五秒以上の差をつけて勝利した。レンジの後方で唇を噛むL-リディアに歩み寄って、こんどは雑賀朔の方から手を差し伸べる。

「ありがとう。いい試合だった」

 雑賀朔の言葉に、数瞬じっと身構えた後、L-リディアはその手を取って握手を返す。

「いつかあなたに勝ちたい」

 L-リディアが見据えて言うのに、雑賀朔は微笑んで首を傾げる。

「どうかな。わたしはあなたと友だちになりたいかも」

 握手をほどいて、L-リディアは眼前の雑賀朔に声を張る。

「わたしはあなたに嫉妬しているし、ときどき憎いよ。あなたは尊敬する師匠にリアクションシューティングを教わって、あなたを愛してくれるひとが沢山いて。わたしはひとりでリアクションシューティングを鍛えてきたのに、誰にも愛されない」

 唇を震わせて睨むL-リディアの視線をしっかり受け止めて、雑賀朔は言葉を返した。

「リアクションシューティングは愛されようと思ってやることじゃないって、『おじさま』は言ってたかな。自分から愛を届けるつもりで、見返りを期待せずにするから、いいんじゃないかな、リアクションって」
#リアクションシューティングガール #リアクションシューティングガール_journal

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CW: #リアクションシューティングガール_journal #4 別に絵描きがみんなしぐれういになりたいわけじゃない

 雑賀朔からお絵描きチャットに誘われて、コカコードは有頂天でJuice Serverに登録した。Misskey非公式フォーク──Misskeyの本家アプリケーションにアレンジが大幅に加わったもの──のサーバーとして開設され、お絵かきチャットや小説ビューワーが備わった、クリエイティブへの細やかな心遣いが特徴のサーバーだ。

 Juice Serverの「土地」に足を踏み入れると、Misskey.ioのサーバーの「街」のような巨大都市の様相とは異なり、まだそこは集落といった人口密度で、ローカルタイムラインの表通りも.ioの喧騒に比べると勢いは穏やかだった。

 道沿いの建物は三階建てが目立つほどにそれぞれ小さな居住まいだったが、日々アップデートが追加されて各所で工事中の地所から工具や重機の音が響いている。オレンジ色を基調とした通りの至る所にオレンジジュースのサーバーが設置されていた。

 そんな表通りを案内するデジタルサイネージのなかに、雑賀朔がお絵かきチャットの部屋を作ったサインを見つけて、コカコードは導かれるままに小躍りしながら絵チャの部屋がある建物のドアを開けた。

 屋内は四方天井が真っ白なキャンバスになっており、空中にホログラムのパレットとタッチペンが浮かんでいて、そのひとつを手にした雑賀朔が、部屋の中央に立っていた。

「ごめんね、呼びつけちゃって」

 申し訳なさそうな苦笑いで首を傾げている雑賀朔に、コカコードは満面の笑みで首を振った。

「ぜんぜん全然、暇だったし!」

 乗り気じゃないバイトの飲み会をバックれて正解だったとコカコードは確信して、雑賀朔とのお絵かきチャットが始まる。推しキャラや自創作のキャラを、ホログラムのパレットと連動したタッチペンで真っ白い壁に描きながら、雑賀朔とコカコードの雑談はさざなみのように盛り上がっていく。

「朔ちゃん上手いよね、やっぱり」

 雑賀朔の描く葛葉や本間ひまわりの絵を眺めながら、コカコードが特に意図もなく言うと、雑賀朔はフッと微笑んでうなずいた。

「お世辞どうも」

「いやマジでマジで、上手いよ」

 コカコードが真っ直ぐ横顔を見つめて言うのに、雑賀朔は苦笑いのように首を傾げて、目の前の月ノ美兎の落書きを完成させる。

「こんなもんか。――なんかお題出してよ?」

 振り向いて訊く雑賀朔に、コカコードは少し虚を突かれながらも、数瞬の間のあとに、言った。

「じゃあ、好きなひとは?」

 コカコードの提案に、雑賀朔は鼻で笑った。

「いいよ」

 そう言ってペンを走らせ始めた雑賀朔に、コカコードは胸躍らせながら隣で自分の好きなひと――雑賀朔のファンアートを描き始めたが、彼の期待は裏切られることになる。

「あー、なんか髭が生えてる」

 雑賀朔の目の前に縁どられた下書きレイヤーの上から描かれるのは、コカコードのような若者ではなく、髭をたっぷりと生やした中年男性で、虹色に輝くスナイパーライフルを構えるスーツ姿の「狙撃手」然とした姿だった。

「それはそうでしょ」

 迷いなくペンを動かしながら、自身のリアクションシューティングの師匠である「おじさま」の姿を描く雑賀朔に、コカコードは本心半分、おどけ半分のリアクションを取ってみせる。

「うっ悲しい、でも負けねえ」

 そのあとは二人してしばらく黙ってお題に沿った絵を描き、目の前には「おじさま」と共に虹色の二丁拳銃を構える雑賀朔のイラストが仕上がった。

「まあでも確かに、カッコいいよな」

 「おじさま」の絵を眺めながら呟いたコカコードに、雑賀朔はニッコリ笑って頷いた。

「でしょ? おじさまはいつだってカッコよかったんだ」

 一通り四面の壁をイラストで埋め尽くした二人はオレンジジュースを飲みながら一休みする。部屋の真ん中でイラストの数々を一望しながら黙っていた二人だったが、先に雑賀朔がコカコードに向き直って口を開いた。

「コカコードくんさ」

「うん?」

「エッチな絵って描くの」

 真っ直ぐ見つめて訊く雑賀朔に、コカコードは逃げまいと見つめ返して、言った。

「まあ描くけど、見せられるもんじゃないかな」

「どういう意味で?」

「え? いや普通に下手で。そんな変態じゃないよ俺」

「そっか」

 雑賀朔がそう言って細かく頷いたのを、コカコードは捨て置かなかった。

「えっ、その『そっか』はどう受け止めれば」

 その問いに、雑賀朔はイラストだらけの壁より遠くを見つめる視線で、言う。

「なんかさ、コカコードくんが垢BANされるの、やだなって思って」

 そう言う雑賀朔の横顔をじっと見つめるコカコードは、目の前にとても美しいひとがいると思っていた。

「心配してくれてんだ」

 コカコードはそう言って、手元のオレンジジュースを飲み干して、続ける。

「エロ基本全部ダメの場所からBANされるのは分かるけど、エロの種類でBANの判断変わるのは正直クソだよな。まあ実在の子供の児ポは当然ダメだけど」

 そう言うコカコードの顔を見つめ返す雑賀朔の表情は、年相応の少女と言うより、いまから旅立つ子を見送る母のようでさえあった。

「でもありがたいな。頑張るよ、俺。エロに頼らず稼げるようになってみせる」

 コカコードが穏やかな笑顔でそう言うのに、雑賀朔は眉尻を下げて応える。

「稼げるのかな、これから絵描きさんって」

 その問いかけに、コカコードは努めて笑顔で返す。

「まあ、絵師VTuberは無理だと思うから、なんか方法いろいろ考えないとな。自分の場合はやっぱり漫画が手間かかるけど一番の近道なんかなあ」

 どうしても首を傾げてしまって、コカコードはため息を吐かないように、と落書きだらけの部屋の壁を見回した。雑賀朔も同じ方向を眺めながらも、こちらは何の遠慮もなく首を傾げる。

「どうなっちゃうんだろうね、未来」

 雑賀朔の言葉に、コカコードは正面から向き直って、真顔で言う。

「ずっと一緒にいたいよ、俺、朔ちゃんと」

 コカコードの告白に、我に返ったのか──雑賀朔は突然吹き出すように笑った。

「まあ、努力してるのは伝わってるから、引き続き頑張って」

 そう言って雑賀朔は自分の側にホログラム表示されていたパレットを閉じてタッチペンを空中高く放り投げた。ペンは部屋の天井に飲み込まれて、お絵描きチャットの「片付け」が始まる。

「さ、気分転換もこんなもんかな、勉強しないと」

 コカコードも見様見真似でパレットとペンを片付けて、部屋から出ようとする雑賀朔の後を追う。

「頑張ってな、受験」

 コカコードの言葉の優しさをしっかりと受け取って、雑賀朔は満面の笑みで応えた。

「まかセロリ」
#リアクションシューティングガール #リアクションシューティングガール_journal

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#今月描いた絵を晒そう #今月創作したものをltlに流す 文章は犬ゥー本作って、コピー本作って、その感想を書いた! ?犬を描いて考えた、情熱のありか 絵の1枚目は小林素顔さんのノート小説シリーズ #リアクションシューティングガール のツキレイさん #FA 2枚目は:nsfw:全裸の女性 3枚目、4枚目はいさなさん宅のパーティーへの手土産や服装に悩む(そして様子がおかしくなっている)自作長編の主人公 7枚目 模写OK写真の模写 8枚目 自前写真の模写 9枚目、10枚目 Xの #スーツアクションの人 参照

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CW: #リアクションシューティングガール_journal #3 エロくて消されるのおかしいだろ、子孫繁栄と逆だろ

 秋晴れに恵まれたMisskey.ioのローカルタイムラインの表通りを今日もたくさんの車両が走っていく。新しく登録されたカスタム絵文字を使ったMFMアート──ノート上で絵文字をコラージュして構成された作品──がオープンバスに載せられて車道を進んでいく。それに向かって、歩道のミスキストたちがそれぞれの手元でカスタム絵文字を練り上げてリアクションとして投げ込む。それは美麗なイラストにも、思わず笑ってしまうネタ投稿にも与えられる、インターネットの喝采だった。

 その日、.ioの表通りに面したカフェテラスで、ピンク髪の地雷系ウエスタン少女──雑賀朔と同席していたのは、ビッグシルエットのセットアップにソバージュの髪が遠目にも目立つ、サングラスの青年だった。

「こいつがリアクションの弾丸、ねえ」

 屋外のテラス席で、サングラスの青年が手にしている「弾丸」は、弾頭に「かわよい」のカスタム絵文字が組まれたもので、雑賀朔が「リアクションシューティング」を行うためのものだった。

「すごいでしょ、『個鯖さん』にあげる、それ」

 「個鯖さん」と呼ばれたサングラスの青年は「かわよい」の弾丸をテラス席のテーブルに立てると、ゆっくり首を振った。個鯖さんは自身の仲の良いフォロワーを迎えた小規模Misskeyサーバーの管理人で、最近はアカウント名を「これ管」に統一しているが、未だに昔呼ばれていた「個鯖」のあだ名が定着していた。

「凄いはスゴイ。けど、リアクションの早撃ちってそんなに意味ある?」

 個鯖さんの言葉に、雑賀朔はニヤリと笑って返す。

「あるよ。皆けっこう最初のリアクションに乗っかっていくから。最初のリアクションを正確に、高い精度で、受け止めたひとが幸せになれるように。これがリアクションシューティングの極意」

 誇らしげな雑賀朔に、個鯖さんは満足げに微笑んだ。

「『おじさま』から極意を受け継いだわけだ。カッコ良」

 表通りの太陽を燦々と受けるテラス席に秋風がそよいで、カフェテラスの客たちがテーブルのレシートやスカートの裾を押さえる。向かい合って座る雑賀朔と個鯖さんの目の前のホットココアとダージリンティーが小さく波立って、湯気が再び立ち上がる。

「質問していい? 答えたくなかったら拒否していいけど」

 個鯖さんの問いに、雑賀朔は首を傾げる。

「内容によるかな」

「なんで.ioにいるの? いろんなサーバーあるのに」

 個鯖さんに訊かれて、雑賀朔は少し遠くを眺めてから、答える。

「仲のいい子たちが.ioにいるから、だし、創作しなくても居ていいサーバーだし、いろいろ面白いから」

「R-18とかこっそり見てないだろうね」

 個鯖さんが探るような上目遣いで訊いたので、雑賀朔は鼻で嗤って返す。

「『見ないであげてる』よ、大人たちが未成年はフォローしないでくださいってうるさいから」

「ははあ、それは失礼いたしました」

 苦笑いで個鯖さんが髪をかきあげたので、今度は雑賀朔が前のめりになった。

「じゃ、逆にこっちから質問していい?」

「知ってることで、言えることなら」

 個鯖さんが椅子の背にもたれて胸を反らすのに、雑賀朔は少し迷ってから、言った。

「──わたしのファンアートを描いてくれてる絵の上手い友達が、もし今後、エッチな絵を描き始めたら、どうすればいいかな?」

 その質問に、個鯖さんの表情が露骨に曇る。

「朔ちゃんのエロ絵を投稿したってこと?」

 個鯖さんが訊き返すのに雑賀朔は慌てて説明を加える。

「違う、ごめん、言葉が足りなかった。まだわたしのそういうのも描かれてないし、エロ絵自体も彼は描いて発表してないし、……わたしの見えるところではね?」

 言われても、個鯖さんは眉間の皺を深く寄せたまま首を傾げる。雑賀朔の言葉が冷や汗混じりに濁っていく。

「でも、彼がエロ絵描き始めたら、わたしどうすればいいかなって、ちょっと気になって」

 雑賀朔は黙って俯いてしまう。個鯖さんはため息混じりに唇を引き絞る。

「そんなん、ブロックすればいいし、もし自分の描かれたら訴訟すればいいよ、紹介するよ? 弁護士」

 雑賀朔は首を振って応える。

「そうじゃなくて。──エロ描くのは百歩譲っていいんだけど、受け止められない癖の持ち主だったら、どうしようって思って」

「嫌ならブロックだよ。悲しいけど自衛がFediverseの鉄則だよ。そもそも、その彼はどんな癖の持ち主なのさ?」

 姿勢を正し、腕組みしながら言う個鯖さんに、雑賀朔は俯き加減で言葉を漏らす。

「癖は、わかんない、……わたしのこと、好きみたい?」

 その返事に、個鯖さんは呆れ返った表情で言った。

「もしかして、まだ分かってないこと心配してるの?」

 すると、雑賀朔は急に背筋を伸ばして、個鯖さんを睨みつけながらまくしたてた。

「だってなんか色んなSNSとかサイトとかネットサービスでエッチかどうかも分かんない投稿でみんなBANされてるんでしょ!? 心配にならないほうが変でしょ!?」

 言い切って、目を潤ませながら唇を振るわせる雑賀朔に、個鯖さんは腕組みを解いて言う。

「あー……まあ気持ちは分かるけど」

「本人に、なんか変なの描くのやめてね、って言えるほど仲良くもないし、そんなに厚かましくないし」

 鼻声で言う雑賀朔の視線を真っ直ぐに見つめ返して、個鯖さんは言った。

「これはなんの根拠もない発言だけど、.ioで活動する限りは世界の終わりの日まで大丈夫だよ。.ioでダメならどこ行ってもダメだし、.ioに何らかの圧力がかかる時は、日本と世界の終わりだから、多分」

 Misskey.ioのローカルタイムラインの表通りを、ボカシのかかった画像を載せたノートのホログラムが何度もリノートされて周回する。そのボカシは沿道のミスキストたちが「念じれば」そのひとの視界の中だけで霧が晴れるように実像を露わにする。いわゆる「センシティブ設定」が為された画像だ。

 .ioのサーバーの街は今日も様々な性癖を受け止めて、翠色の空に浮かぶ太陽はミスキストの誠実さを見守っていた。
#リアクションシューティングガール #リアクションシューティングガール_journal

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CW: #リアクションシューティングガール_journal #2 自衛にも限界がある、泣いていい? フォロワー

 Misskey.ioのローカルタイムラインの表通りは秋雨に割って入り込む晴れ間を歓迎して賑やかだった。Fediverseの大地の向こうから吹き込む涼やかな風と、.ioの翠色の空を照らす太陽の光が、.ioの街をゆくミスキストたちの額や首筋を爽やかに撫でていく。

 表通りに面したカフェテラスは今日も満席で、歩道を行き交う人々を眺めながら談笑するテラス席の客たちのココアは、アイスとホットが半分くらいの割合になっていた。

 そのテラス席のひとつで、青年と少女が向かい合って座っている。いや、正確には、姿勢を正して椅子に座っているピンク髪の少女──雑賀朔と、スケッチブックに10Bの鉛筆を走らせている顔面二次元コードの青年──コカコードが、いま、デッサンモデルと画家の関係だった。

「この前こんすけ先生を救った朔ちゃんたち、凄えカッコよかった」

 鉛筆を寝かせたり練り消しを押し付けたりしながら、コカコードはそう言って雑賀朔にウインクした。

「カッコつけるためにやってるわけじゃないけどね」

 雑賀朔が苦笑いしながら言うと、コカコードはニヤリと上目遣いになる。

「でも、みっともないよりいいだろ?」

「そりゃまあそうだけど」

 首を傾げてそう返す雑賀朔に、コカコードは姿勢を正すようにジェスチャーして、慌てて雑賀朔はまた背筋を伸ばした。

「だいたい、『おじさま』がカッコよかったから弟子入りしたんだろ? リアクションシューティング」

 コカコードの言葉に、頷くのを我慢しながら雑賀朔は肯定する。

「それはまあ、たしかに──おじさまのイラスト、ありがとね」

 雑賀朔はコカコードに、自分の師匠であり初恋のひと「おじさま」のイラストを描いてもらった。その作の素晴らしさに素直に感謝して、雑賀朔はそう言ったのだった(あまり褒めすぎるとコカコードを勘違いさせるので抑えた)。

「カッコよく描けてたろ?」

 コカコードの誇らしげな笑顔に、雑賀朔も優しく微笑んで応える。

「まあまあね」

「でもわざわざデッサンモデルやってくれるなんて」

 デッサンモデルを提案したのは雑賀朔の方からだった。感謝をコカコードに伝えたいと思えるくらい良いイラストだったけれど、感謝のより良い伝え方が分からなかったから、こうしたのだった。

「非公開でプレゼントしてくれたからね。投稿したら伸びそうだったやつだから」

 雑賀朔が全く正直にそう言うと、珍しくコカコードが面映そうに笑った。

「そんな気を使わなくてもいいのに」

「じゃあいいの? いまデッサンモデルやめても」

 雑賀朔はここぞと意地悪く笑ってみせると、コカコードは破顔して首を傾げて言う。

「そんなことは言ってないんだなあ」

 そうしているうちに、コカコードの鉛筆が止まって、雑賀朔の顔とスケッチブックを見比べる。雑賀朔は椅子から立ってコカコードの横に立つ。

「見せてよ」

 雑賀朔に言われて、コカコードはスケッチブックを渡した。

「いいよ、はい」

 渡されたスケッチブックには、確かに雑賀朔の特徴を捉えた少女のバストアップが描かれていたが、それは雑賀朔の自認よりも突き抜けて美しいひとの姿だった。

「こんなに可愛くないよ」

 赤面しないように努めて苦笑いしながら雑賀朔が言うと、コカコードは力強く断言する。

「なに言ってんの可愛いよ! 可愛いし美人だし、カッコいいしサイコーだよ、朔ちゃんは」

「いいよ、そういうの」

 恥じらいが雑賀朔の表情をひどくしかめさせた途端、コカコードが今までになく怖気付く。

「嫌かな」

 不安そうに眉根を寄せるコカコードに、雑賀朔はハッとして顔を覆い、自分の眉間をほぐして普段を取り戻そうとする。

「嫌ではないけど、恥ずかしいっていうか」

 そんなやり取りのあと、二人の間に数刻の沈黙が横たわる。晴れ間は晴れ間のまま、秋風は秋風のまま──再び会話を切り出したのはコカコードだった。

「次のポーズ、いい?」

 その提案に、雑賀朔は素早く反応する。

「どんなの?」

「立ってみて、ピストル構えられる?」

 言われて、雑賀朔は弾を抜いたリボルバーを二挺、虚空に向かって構えてみせる。コカコードはまた鉛筆を走らせ始める。

「ねえコカコードくん」

「ん?」

 筆を止めずに応えるコカコードに、雑賀朔が訊いた。

「こっちの届けたリアクションが相手を怒らせちゃったときってどうすればいいんだろう」

「え? どゆこと、朔ちゃんがリアクション、ミスることあるの?」

 驚いたような声で訊き返すコカコードに、雑賀朔は首を傾げて答える。

「ミスって言うか、カスタム絵文字の解釈違いっていうか、励ましのつもりで送ったリアクションが皮肉とか事なかれに受け取られちゃうことって、やっぱりあって」

 俯きかげんになる雑賀朔に、コカコードは問いを重ねた。

「『おじさま』はそういうときの対処法、なんて言ってたの」

「相手の拒否の意志を受け入れること、こちらで謝ることがあっても許されるとは期待しないこと、自分の地位を高めるためにリアクションシューターであろうとしないこと、だったかな」

 雑賀朔の答えに、コカコードはやはり筆を止めずに言った。

「それちょっと、厳しくない? 自分を良く見せる下心ゼロでリアクションとかしないでしょ、Misskeyなんだから」

 言われて、雑賀朔はリボルバーを持ったまま腕組みする。

「相手の意思を尊重するのはもちろんだからそれはいいんだけど、こっちの気持ちがギュって苦しいのがさ、どうすればいいのかなって」

「甘えればいいんじゃない、フォロワーに」

 コカコードの言葉に、雑賀朔はじっと見つめ返す。

「甘えるって?」

「DMでもいいし他鯖の複垢でもいいし、ちょっと話聞いてもらうだけでもいいじゃん、ツキレイちゃんだって凡百ちゃんだっているんだし、……俺だっているんだからさ」

 スケッチブックをめくって、コカコードは続ける。

「あんまり一人で抱え込むなよ、リアクションシューティングは立派な務めだけど、朔ちゃん本人が壊れちゃったら、悲しいぜ?」

 その言葉に、雑賀朔は全身を強張らせていた緊張が解けて、思わず泣きそうになるのを、必死に堪えた。

「……あ、ごめん、ポーズぐちゃぐちゃだった」

 気付いた雑賀朔が言うと、コカコードは高らかに笑って返した。

「大丈夫大丈夫、ぜんぶジェスドロで写したから」

 風が季節の予感を運んで移ろうのなら、タイムラインは時代の予感を運んで移ろう。いま、Misskey.ioに流れてくる風は秋を知らせ、タイムラインは内閣改造のニュースとシルバーウィークの話題が流れていく。その移ろいの中で、雑賀朔もコカコードも、古典の昔から変わらないひとりの人間として、カフェテラスにいるのだった。

#リアクションシューティングガール #リアクションシューティングガール_journal

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CW: #リアクションシューティングガール_journal #1 笑うな、救いを求めてMisskeyに来たひとを

 インターネットはひとを簡単に怪物にしてしまう。それはFediverseの大地に建つサーバーの街の人々も同じで、原因は様々だが、ローカルタイムラインの表通りがあるサーバーだと、怪物になってしまったひとが余計に目立ってしまう。

 重い悩みの中で孤独を深めているひとの悲しい叫びが、FF外や連合サーバーまで伝わって、心無い批判に晒されてしまうまえに、優しさをかけられるなら、どんなに素晴らしいことだろう。

「こんすけ先生が! こんすけ先生が!」

 Misskey.ioのローカルタイムラインの表通りに悲鳴が上がった。ビル群の稜線の向こうに大きく身を起こしたのは、.ioはもちろんXやInstagramでも人気者の「こんすけ」という神絵師だった。

『どうして……向こうからフォローしてブロミュって……オタクがアフヌンして何が悪いの……ちいかわ嫌いで何が悪いの……通院つらい……e-Tax分からない……全てが憎い……全てが憎い……!』

 こんすけはひとの形から大きく離れ、見上げるほど巨きくなった身体はまるで時空の切れ間のように穴となって、その中から無数の肉塊の生物が這い出していた。かろうじて人体のシルエットをした輪郭も液体のように不確かで、まるで怨念を持った積乱雲のようでさえあった。

 巨大な異形のこんすけから、走って逃げていくミスキストたち。その中で、反対にこんすけへ向かって疾走していくオープンカーが一台──それは車体が変形したにゃんぷっぷーで、車輪が【号泣するオタ】で出来た、カスタム絵文字の集合体だった。

「どれくらいまで近づくの!?」

 オープンカーを運転していたのは銀髪で褐色の少女だった。イエローとグリーンのコック帽を手で押さえながら、少女が同乗の二人に訊くと、ピンク髪に地雷系ウエスタンの少女が助手席で虹色のリボルバーの撃鉄を起こす。

「──ストップ! ここで!」

 オープンカーが急ブレーキをかけて、ボンネットのにゃんぷっぷーが、ぷにゃあ? と鳴くと、助手席からピンク髪の少女が、そして、後部座席から、拡声器を手にした、オレンジのツイードワンピースに制帽の少女が降車して、蠢く巨大なこんすけの前に立った。

「どう動く? 朔ちゃん」

 制帽の少女に「朔ちゃん」と呼ばれたピンク髪の少女──雑賀朔は、制帽の少女とコック帽の少女に向かって言う。

「ツキレイちゃんの『リプライ』の時間を埋める感じでわたしが『撃ち続ける』から、凡百ちゃんは『とっておき』をその間に準備して」

 雑賀朔に言われて、制帽の少女──ツキレイは拡声器を口元に構えて、コック帽の少女──凡百は、ハンドミキサーと持ち手付きのボウルを取り出す。

『猫飼いたい……ギャラリーストーカー嫌い……何も思い通りにならない…全てが憎い……!!』

 三人の目の前のこんすけは、道路に打ち捨てられた乗用車や道路標識を飲み込みながら、歪んだ呻き声を上げてゆっくりと近づいてくる。

 あらゆるものを己が身の闇に吸い落としていくこんすけをじっと見上げながら、雑賀朔はホルスターに二挺下げた虹色のリボルバーの片方をギュッと握り、銃口をこんすけに向け、深く息を吸い、叫んだ。

「バラ咲く、百合咲く、さくら咲く、カスタム絵文字の花が咲く! リアクションシューター雑賀朔、あなたの心に偉業をシュート!」

 乾いた破裂音と共にリボルバーから放たれたのは様々な表情の【にゃんぷっぷー】【ブロブ】【村ノコさん】などのカスタム絵文字で、そのリアクションシューティングはこんすけの「闇」のなかに吸い込まれながらも、確かな光をもたらして這い出す肉塊たちを「浄化」していく。

「【<<こんすけ先生の漫画、いつも楽しみに読んでまーす!!!!!>>】」

 雑賀朔が弾のリロードに入る瞬間にツキレイが拡声器で叫んだリプライは、立体化して重量を伴ってこんすけに飛んでいき、闇の中に飲み込まれると、こんすけの不明瞭な輪郭がぶるぶると振動する。

「【<<先週の雨宿りしてるバニサガ漫画サイコーでしたー!!!!!>>】【<<こんすけ先生がいてくれたお陰で生き延びたバニサガ民は沢山いるので先生も自信持ってくださーい!!!!!>>】」

 ツキレイが幾度も「立体化したリプライ」を叫び、雑賀朔がリアクションを撃ち続ける後ろで、凡百は自分のボウルに種々様々な絵文字を放り込んで、ハンドミキサーでかき混ぜながら「とっておき」を準備していた。

「オッケー行けまーす!!」

 凡百が叫ぶと、雑賀朔とツキレイがこんすけの正面から素早く身を引いた。凡百の持っていたボウルから、メレンゲ状の「とっておき」がモコモコと膨らんでいくと、こんすけと同じ背丈の「巨大多腕マッチョ冬毛にゃんぷっぷー」が立ち上がった。

 巨大にゃんぷっぷーはこんすけにゆっくり歩み寄ると、その不明瞭な輪郭の身体を優しく多腕で抱きしめた。

『うう……うあ……』

 巨大にゃんぷっぷーに優しく撫でられているうちに、こんすけの体がゆっくりと巨大にゃんぷっぷーに吸収されていく。すっかり吸い込まれた瞬間、巨大にゃんぷっぷーのちょこんとした尻尾の下から、粘液にまみれたマリメッコのワンピースの女性が吐き出された。普段の姿のこんすけだった。

「先生!!」

 三人が急いでにゃんぷっぷーの尻尾のもとに駆け寄ると、口から粘液を吐き出しながらもこんすけは半身を起こして、意識ははっきりとしていた。

「ごめんね……ありがとうね、フォロワーのみんなに心配かけちゃったね」

 ずぶ濡れのこんすけの目元から一筋の涙が流れる。三人も釣られて涙を滲ませながら、皆で手を取り合って、互いの温もりを確かめ合うように抱き合ったのだった。

 Misskey.ioの表通りはすっかり日が暮れていた。碧色の夜空にエメラルドの満月が清々しく浮かんで、平穏が戻ったタイムラインを凛と照らしているのだった。
#リアクションシューティングガール #リアクションシューティングガール_journal

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CW: #リアクションシューティングガール 低気圧のときほどフォロワーといっしょに居たいよ

 Misskey.ioのサーバーの街にも低気圧の影響は等しく覆い被さり、ローカルタイムラインの表通りを走るノートの数々には頭痛や神経痛をはじめとした体調不良の報告が列を成した。歩道をゆくミスキストたちだってみな具合が悪いのだけど、そこはお互いさま、【撫で撫で】のカスタム絵文字を練り上げて、悲鳴のようなノートにリアクションをそっと放り投げて、電子の抱擁で優しさを分かち合っていた。

 そんな車道と歩道のやり取りを気にしながら、雑賀朔は今日も表通りの交差点に面したカフェテラスに向かっていた。ひとりぼっちのひとはいないか、涙も枯らして振り絞るように悲痛なノートをタイムラインへ流しているひとは──雑賀朔が.ioの街で最も気掛かりなのはそういう存在だった。ピンク髪も地雷系とウエスタンをミックスした装いも、目立つことで辛い思いの人たちに気付いてほしいという彼女なりのアピールだった。

 すると、チャンネルの裏通りの路肩に座り込んでいる、見覚えのあるバーコード柄のチャイナ服の青年がいた。黒髪をチャイナ服の前垂れに沈めて、肩で息をしている青年に、雑賀朔は眉間に皺を寄せながら声をかける。

「大丈夫? どうしたの?」

 雑賀朔の声に青年が顔を上げると、目元が二次元コードの模様で隠された、真っ赤なルージュを引いた美貌が現れて、予想通りコカコードだった。

「わりい、水買ってきてくんない」

 白黒のモザイクで見えにくいが、コカコードの辛そうな表情が見てとれたので、雑賀朔はすぐさま踵を返して自販機で天然水を買って持ってきた。

「二日酔い?」

 雑賀朔がボトルを渡しながら訊くと、コカコードは首を振りながらズボンのポケットを漁った。

「違う」

「OD?」

「違う。大丈夫だって。ただちょっとマジ頭痛ひでえだけなんだわ」

 そう言ったコカコードはポケットから錠剤の包装を取り出して、器用に口に含んでボトルの水で飲み込んだ。

「なんか他に必要?」

 かがみ込んで訊く雑賀朔に、コカコードはしっかり首を振った。

「これで時間経てば大丈夫」

 座ったままコカコードは、雑賀朔を見上げて訊き返す。

「朔ちゃんは大丈夫なの? すげえ低気圧じゃん」

 その問いに、雑賀朔は首を傾げたあと横に振った。

「あんま気になんない」

 その言葉を聞いたコカコードが感嘆の声を漏らす。

「かっけえな。羨ましいよ」

 コカコードは深く息を吐いたあと、ゆっくりと立ち上がってズボンの砂を払った。

「がっかりしたろ? カッコ悪いなって」

 コカコードが、俯きながら目を逸らし気味に言うことを、雑賀朔は本当によく分からなかったので訊き返した。

「何を?」

「俺のこと、虚弱児だなって」

 コカコードが遠い目でローカルタイムラインの向こうを見つめている。雑賀朔は傾げていた首を戻しながら、真っ直ぐに言った。

「べつにコカコードくんにフィジカルを期待してないし」

 その言葉に、コカコードが力無く、ハハハ、と笑う。

「それもショックだなあ」

 コカコードはようやく雑賀朔のほうを向いて、深く頭を下げた。

「ありがとうございます」

「急に敬語」

 微笑みながらツッコむ雑賀朔に、コカコードは頭を下げたまま、上目遣いに訊いてくる。

「……これからも会ってくれる?」

「いや、なにも嫌われる要素ないし。コカコードくん困ってたらそりゃ助けるよ、こんだけ仲いいわけだし」

 自分で言いながら、雑賀朔は驚いた。確かに雑賀朔はコカコードを嫌うほど煙たがってはいないし、困っているひとが居たら出来うる限り救いの手を伸ばすのが雑賀朔の信条だった。しかし、コカコードと仲が良い自覚までは無かったのだから。

「仲いいんだ、俺たち」

 雑賀朔から言質を取ったことに、コカコードは喜びを隠しきれずに満面の笑みで身を起こす。

「たくさんいるフォロワーのなかの、たくさんの友達のひとりとしてね」

 雑賀朔が半分くらい大慌てでそうフォローして営業スマイルを見せつけると、コカコードはスマホを取り出して言った。

「水の代金」

 決済サービスの画面をスワイプしながら言うコカコードに、雑賀朔は首を振る。

「いいよ、おごるよ」

 言われてコカコードが食い下がる。

「それはマズいだろ、未成年におごってもらう成人って」

「じゃあ、お題でイラスト描いてよ」

「おお、いいよ。なに描く?」

 コカコードが今度はタブレット端末とペンを取り出して言うのに、雑賀朔はニヤリと笑って言う。

「四十代くらいの髭が立派な『おじさま』で、髪の色はブラウンかな、デニムとTシャツだったり、スーツだったりするんだけど、リアクションシューティングの師匠みたいなひと。わたしの持ってるのと同じ虹色のライフルにカスタム絵文字の弾を詰めて、救いが必要な人にリアクションを撃ち込むところ、描ける?」

 その説明を聴いて、コカコードは腰に手を当てて深呼吸しながら雑賀朔に訊く。

「その『おじさま』のアカウントってのは、まだ残ってるの?」

 質問に雑賀朔はスマホを取り出して、自分の.ioアカウントからコカコードのアカウントへ、リンク付きのDM送る。

「アドレス送っといた」

 雑賀朔に言われてコカコードはタブレットの画面で.ioを開く。

「あ、このひとか」

 コカコードの意外な反応に、雑賀朔はちょっとびっくりする。

「知ってるの?」

「なんか.ioに初めて来たときにめっちゃくちゃリアクションしてくれたひとだなと思ったら、朔ちゃんの『おじさま』だったんだ。そっかそっか」

 コカコードはなんだかとても納得行ったように何度も頷いて、微笑みながらその場でタブレットにイラストのラフを描き始めた。雑賀朔は、今までの人生で体験したことのないような喜びと恥ずかしさが体の奥から熱く込み上げて、顔一面がチークより真っ赤になってしまったのだった。

 SNSでの人と人との触れ合いは、優しさであって欲しいと、全ての人類が思っていることは間違いのない厳然とした事実である。しかし、神様というのが本当にいるなら、それをなんの努力もしない人類に許可していない。私たちのすれ違いは、私たちで懸命に取り戻していかなければいけない。雑賀朔とコカコードは、いま、Misskey.ioのサーバーの街の路上で、互いの優しさを紡ぎ合っていた。
#リアクションシューティングガール

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CW: #リアクションシューティングガール そのひとは、運転席が似合うお姉さんでした 1/2【NSFW単語の会話あり】

 Misskey.ioのローカルタイムラインの表通りは今日もカスタム絵文字が飛び交い、ミスキストたちがリアクションを互いに送って「電子の抱擁」で心を庇いあっていた。ある絵師の「うちの子」にはフォロワーたちから素早く「かわい〜ッ!」が送られ、ダジャレを投稿したアカウントには「寒くありませんか?」が叩きつけられる。みな各々の手のひらの中でカスタム絵文字を練り上げて、なんの躊躇いもなく投げ込むことで高速のコミュニケーションを楽しんでいた。

 そんな騒がしい表通りの縁石に立ち、車道のほうを見つめている少女がいる。ピンク髪に地雷系ウエスタンの姿は、明らかに雑賀朔だと見てとれた。

 人待ち顔の雑賀朔が眺めている表通りの向こうから、一台の大きな車体のSUVが近づいてくる。堂々と登場したメルセデスGクラスは雑賀朔の目の前に停まって、左ハンドルのパワーウインドウが下がった。ハンドルを握っているのは、ブラウンのショートボブに丸眼鏡が印象的な女性だった。
 
「久しぶり、どした、急にドライブ連れてってなんて」

 丸眼鏡の女性に訊かれて、雑賀朔は上目遣いに答える。

「ミミさんと、二人きりで? 話したくて」

 「ミミさん」と呼ばれた丸眼鏡の女性は雑賀朔の言葉を聞き、優しく微笑んで親指を立てて手招きした。

「いいよ、乗りな」

 雑賀朔が助手席に這い上がると、Gクラスはゆったりと車道を加速し始める。雑賀朔がフロントガラスから見渡せば、.ioのローカルタイムラインの表通りはビル群のそこかしこにイラストを映し出し、リアクションを投げ合うミスキストたちも、歩道を這って歩くにゃんぷっぷーやツチノコ村上さんも、じつに誇らしげで、それは横で運転するミミさんも同様だった。

「ミミさん、最近ワンピースじゃないんですね」

 雑賀朔が知り合った頃のミミさんの格好は、快活そうなAラインワンピースや、ボディコンのミニワンピだったりした。しかし今日のミミさんは、黒地にグリーンのセンターラインが施された、カラーレスジャケットにタイトスカートのセットアップだった。

「もうアラサーも目の前だからねえ、大人のわたしも見せていかなきゃと思って」

 雑賀朔の指摘にそう答えて、ミミさんは交差点を曲がる。ローカルタイムラインの表通りからメディアタイムラインの表通りへと曲がるとき、角の一等地にいつもの行きつけのカフェテラスが見えた。

「それで、どしたん、話聞こか? なーんつってな」

 しっかりとハンドルを自分で運転しながら、ミミさんが雑賀朔に尋ねる。雑賀朔はミミさんのハンドルを握る指先やペダルをさばく足元を横目に見ながら、訊いてみる。

「ミミさんは今まで、何人くらいのひととお付き合いしてきたの?」

 少し失礼だったかな、と質問した後で雑賀朔は悔やんだが、ミミさんは平然と答えて見せた。

「そんなに何人も付き合ってないよ。 んーとね、三人かな、何をもって彼氏とするかは難しいけど」

 意外な回答に、雑賀朔はミミさんに向きなおって問いを重ねる。

「そんなにあいまいなの?」

「べつに、付き合ってください、で始まるもんでも、お別れしましょう、でちゃんと終わるもんでもないしね」

 前を向いたまま答えるミミさんに、雑賀朔はさらに踏み込んだ質問を試みた。

「セフレ、とか、いたの?」

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CW: #リアクションシューティングガール そのひとは、運転席が似合うお姉さんでした 2/2【NSFW単語の会話あり】

「セフレ、とか、いたの?」

 雑賀朔の問いに、ミミさんは首を傾げながら答える。

「セフレはいないなあ、そこはちゃんと線引きしてた」

 目の前に合流してきたアドトラックは全面にセンシティブ設定のイラストが掲載されていて、遠目からはボカシが入っているように見えるが、これらはMisskeyのサーバーの街の中にいる住人であれば「見たいという意思」によって解除できるものだった。もちろん、いまの雑賀朔はそれどころじゃないし、ミミさんも運転にしっかり集中していた。

「あの、小林さん? は、彼氏なの?」

 雑賀朔は覚悟を決めて訊けるところまで訊こうと思った。「小林」という中年男性は、青緑の肌でエイリアンみたいに耳と鼻が尖ったひとで、ミミさんと同じく表通りのカフェテラスの常連で、何故かミミさんと仲良しだった。

「彼氏ではないかな。小林は小林だよ」

 ミミさんの答えに、雑賀朔は意を決して訊く。

「小林さんとはしてないんだ」

「したよ」

「したって」

 雑賀朔が言うと、ミミさんは横目で目配せしながら微笑む。

「したよ、セックス。最近もしてるし」

 思わず赤面していくのを自分ではっきりと感じながらも、雑賀朔は思った疑問をきちんと口にする。

「彼氏じゃないのにセックスしてたら、それはセフレじゃないの?」

「なんだろねえ」

 ミミさんはそう言って首を傾げたあと、しばらくの沈黙のあと、言った。

「もっと別枠なひとかな、彼氏とか、夫とかより、もっとなんか違う。だから、小林は小林」

「そういえば、ミミさん結婚してるの?」

「してないし、フリーだよ。そういうのいなくてもそれより大切な『小林』ってこと」

 そこまで答えたところでGクラスが交差点で止まり、ミミさんは雑賀朔のほうに振り向いて訊いた。

「朔ちゃんも悩んでんの? 男の子のこと」

 ミミさんからの視線を雑賀朔は受け止められずに、メディアタイムラインの表通りのビル群に目を向ける。Misskey.ioの絵師たちの「うちの子」たちのイラストやファンアートが、壁一面のデジタルサイネージに映し出されているが、いまのところ、「自分を追っかけて来るあいつ」によるイラストは見当たらない。

「すごい迫ってくる男の子がいるんですけど、わたしまだ『おじさま』のことが忘れられないし、別に悪いひとじゃないんですけど、なんか、こっちが期待させてるまま友だちみたいに付き合ってるのも、悪いのかなとか」

 雑賀朔が「あいつ」のことを、必死で端的にまとめて喋ろうとすると、ミミさんはフフっと微笑んでみせた。

「朔ちゃんは真面目だなあ。そういう曖昧な、答えが出せない関係性が続くのも含めて恋愛だし人間関係だからなあ、まあじきに分かってくるよ」

 ミミさんはそう言って、Gクラスをメディアタイムラインの表通りから一本入った「いつも通りチャンネル」に入れて、ゆっくりと裏通りを進んでいく。そういえば、ミミさんは色々なひとから「ミっちゃん」とか「ミミミミさん」とか、「ミスキーガール」なんて呼ばれ方までされていたのを雑賀朔は思い出した。

「『リアクションシューター』のおっさんは、やっぱり戻ってこれなそうなんだ」

 ミミさんに唐突に訊かれた質問だったが、雑賀朔は特別に動揺することもなかった。少しずつではあったが、「リアクションシューター」と自身で名乗っていた「おじさま」の不在を、自分自身が受け入れつつあるのだと雑賀朔には感じられた。

「さよならの挨拶も出来なかったんです。生きてるか死んでるかも分からないままです」

 雑賀朔は努めて冷静に事実だけを述べた。すると、ミミさんはハンドルに突っ伏してしまいそうなほどに身を屈めて、勢いでクラクションが鳴った。

「あかん、朔ちゃんが成人なら絶対にお酒飲みに連れてっちゃう」

 丸眼鏡の下からアイラインを指で気にしつつ、ミミさんは言った。

「わたしが子供のころの初恋のひとも、歳がずっと離れててさ、さよなら言えないままのお別れだったんだよね」

 すこし鼻声のミミさんに、雑賀朔はいつも通りチャンネルの、いつも通りの風景に目を向けたまま、訊いた。

「その、なんて言うか、乗り越えられましたか?」

「小林と出会えて、やっとね。それまで付き合った三人は『みんなが恋愛してるから』でなんとなく付き合ってたけど、小林のお陰でようやく色々と振り切った感じ」

 その言葉に、雑賀朔は思わず首を傾げる。

「おじさまのこと、振り切りたい訳じゃないけど」

 すると、ミミさんは深く頷いたあとにゆっくり首を振った。

「分かるよ、そのひとのこと忘れちゃうぐらいなら傷ついたままでいたい感じ。でもさ、今すぐじゃなくていいけど、朔ちゃんは幸せになって全然大丈夫なんだからさ」

 その言葉を聞いて、雑賀朔はミミさんの横顔を見つめる。ミミさんも振り向いて視線を合わせると、二人は納得を分かち合うように笑い合った。

 Gクラスがチャンネルタイムラインの裏路地から出ると、そこはもうローカルタイムラインの表通りで、普段と変わらない優しい喧騒がミスキストたちを包んでいた。西の空には夕陽が沈もうとしていて、.ioの翠色の空を東の空の向こうに押しやろうとしていた。
#リアクションシューティングガール

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CW: #リアクションシューティングガール 三人の少女は「それは恋バナでは無い」と言う

 Misskey.ioのサーバーの街、ローカルタイムラインの表通りに面したカフェテラスでは、今日もミスキストたちが店主がイチオシするアイスココアを味わっている。香ばしい甘みを口に含みながら、皆それぞれのデバイスで、イラストを描いたり、写真を加工したり、ダジャレや大喜利、夢妄想をノートしたりしていた。

 表通りの様子が見渡せる、屋外のテラス席の一画で、三人の少女たちが今日もココアを手に談笑していた。その中の一人がすっと椅子から立って、目の前のテーブルに、持ち手のついたボウルをしっかりと据えてみせる。

 ボウルの前に立った少女は、鮮やかな褐色の肌と銀髪のショートカット、グリーンのベースカラーにイエローのスマイリー絵文字が賑やかなアグリーセーターを着て、同じくグリーンとイエローのコック帽をかぶって、手にはハンドミキサーを持っていた。

 コック帽の少女は足元をうろつく野良のにゃんぷっぷーを捕まえると、迷いなくボウルに突っ込んでハンドミキサーで撹拌し始める。その間に、空いた方の手のひらで、バナナやプリンのUnicode絵文字を「練り上げて」、やはりボウルに投げ込んで一緒にミキサーしていく。

 ボウルの中でにゃんぷっぷーと絵文字が混ざり合い、メレンゲ状に膨らんでいく。ボウルに山盛りになったところでミキサーを止めてしばらくすると、膨らみが収まってボウルにゼラチン状の固まりが現れる。それを小皿に取り分けると、にゃんぷっぷーの形のスイーツがぷるぷると立ち上がった。

「ほいお待ち、『にゃんぷっぷーのバナナババロア』だよ」

 コック帽の少女からババロアを受け取って、地雷系ウエスタンの少女──雑賀朔は穏やかに微笑んだ。

「いつもありがとうね、凡百ちゃん」

 「凡百ちゃん」と呼ばれたコック帽の少女は、優しく首を振った。

「全然、全然。朔ちゃんやツキレイちゃんがいてくれるから楽しく『エモジクッキング』できるわけだし」

 そう言って凡百は、雑賀朔ともうひとり、「ツキレイ」と呼ばれた少女に微笑む。

「なんか悪いねえ、ただ美味しく食べてるだけなのに」

 そう言って「ツキレイ」は、手にしていたオレンジとホワイトの拡声器をテーブルに置いて、両手を合わせてからババロアを食べ始めた。ツイードのワンピースも、紙飛行機がデザインされたエンブレムをあしらった制帽もオレンジとホワイトで、その色合いが肩まであるパープルブルーの髪を際立たせていた。

 三人がババロアを食べていると、表通りの車道をホログラムのイラストが走っていった。それは雑賀朔を可愛らしく描いたファンアートだった。

「あ、コカコードくんの絵だ」

 凡百が気づいてそう言うと、ツキレイが雑賀朔に振り向いておどけてみせる。

「大好きじゃん、朔ちゃんのこと」

 雑賀朔は首を傾げながら振って、苦笑いする。

「ご期待には添えないかなあ」

「え、じゃあブロミュするの?」

 ツキレイが重ねて訊くと、雑賀朔は遠い目をしながら返す。

「別にひどい迷惑かけられてるわけじゃないし、まあ、ファンアートは嬉しいし」

「やっぱり忘れられないんだよね、『おじさま』のこと」

 凡百の言葉に、雑賀朔はババロアをひとくち味わってから、言う。

「お別れも言えてないし、今にもひょこっと現れるんじゃないかって思うし」

 雑賀朔にそう言われて、切なそうな顔でツキレイが胸に手を当てる。

「つらい恋してるなあ、朔ちゃん。抱きしめさせて」

 そう言ってツキレイが雑賀朔に抱きつくと、凡百も後に続いた。

「ずるいずるい、わたしも」

 ツキレイと凡百に抱きつかれて、雑賀朔は黙ってなすがままにされながら、九月の日差しの中にいた。

 満足いくまで抱きしめてから、ツキレイは姿勢を正して雑賀朔に訊く。

「こういう訊き方よくないかもしれないけどさ、コカコードくんに望みは全くないの? 何かアイツに方法は無いの?」

 その問いに、雑賀朔は鼻で笑ってしまう。

「それをツキレイちゃんが訊いて、アイツになんかしてあげるの?」

 少しばつの悪そうな表情で、しかしツキレイは続ける。

「いや、ごめんね。でも、やっぱり辛そうだし、朔ちゃん。ガキみたいな男で埋まる心の穴じゃないのも分かるんだけど、なんか、幸せになれるならその方がいいかなって」

 心配そうな表情のツキレイがいじらしいと雑賀朔は思った。

「そうだねえ」

 腕組みしながら椅子の背にもたれて、雑賀朔は言う。

「こっち向き過ぎてるの、正直ウザイかなあとは思うかな。おじさまは、ほら、大人だったから、色んなひとを見てたし、世界を見渡してるかっこいい大人だなって思ったし」

 雑賀朔の答えに、凡百が続いて言う。

「コカコードくんは何を見ればいいんだろうね、漫画家目指してるんだっけ」

「じゃあコカコードくんがなんかの賞獲ったら、少しは彼を見直しそう?」

 ツキレイが訊くと、雑賀朔はニヤリと笑って言った。

「賞獲った漫画の内容によるかなあ」

 そのとき、凡百が身を乗り出すようにして訊いた。

「ガチな話、コカコードくん、朔ちゃんにはあんまりカッコよく見えてない?」

「ルックスのこと?」

 雑賀朔が訊き返すと、凡百もツキレイも同じ深さで頷いてみせる。

「あれの、どこが?」

 呆れたように雑賀朔は笑ったが、頭を抱えたのはツキレイだった。

「可哀想なコカコードくん、顔ファンの女の子が大激怒だ」

 その言葉に、雑賀朔は真剣に驚いてしまう。

「アイツ顔ファンいるの!? だって顔面二次元コードだよ!?」

「世の中には色んな癖の方がおられますので…メカクレフェチ、異形頭推し、などなど…」

 凡百がニコニコとそう言うと、雑賀朔は首をぶんぶん振って言う。

「理解できません。わたしはごく一般的な癖のミスキストです」

「この歳でオジ専ヒゲ専も、かなりトガってると思うよお」

 凡百がそう言うと、雑賀朔は眉間に皺を寄せて首を傾げる。

「そうなの?」

「自覚ないの?」

 凡百が目を丸くしてみせると、隣でツキレイは拡声器を素早く手に取って、表通りの方に向かって、叫んだ。

「【<<コカコードぉ! 髭を生やせ! 髪をシルバーにしろ! 老けろ! 朔ちゃんはオジ専だぞーぉ!>>】」

 その言葉が、拡声器から「立体のリプライ」となってローカルタイムラインの表通りの向こうに飛んでいく。先ほどのイラストを載せたノートと、.ioのサーバーの街のどこかにいるはずのコカコード本人へと、「質量のあるリプライ」が、「重みを伴って」届いていく。

「やーめーろー! ローカルに流すなそのリプ!」

 雑賀朔に羽交締めにされてもツキレイは次のリプライを止めようとしない。その様子を凡百は微笑ましく眺めている。そんな三人をカフェテラスの店員たちも優しく見守っている。

 Misskey.ioのサーバーの街は今日も穏やかな喧騒でミスキストを包み込んで、皆の心を電子の抱擁で庇うのだった。
#リアクションシューティングガール

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CW: #リアクションシューティングガール さよならの代わりに残してもらった「技」

 Misskey.ioのローカルタイムラインの表通りを進んでいくと、ビル群のなか、道沿いに大きな倉庫のような建物が忽然と現れる。通りに面したガラスの扉を押して入ると、そこにはリアクションシューティングの射撃場が広がっている。一見するとアメリカや韓国にありそうな、ターゲット一つ一つのコースがパーティションで仕切られたシューティングレンジだが、そこに飛び交う弾丸は鉛玉ではなく、カスタム絵文字のリアクションの弾だった。

 建物に入って手前の10レーンは、パーティション内にカウンターが設けられた精密射撃のレンジだが、その向こうには、カウンターも無く広々とした、移動しながら複数のターゲットを射撃できるタクティカルシューティングエリアがある(もちろん上級者向けだ)。

「ラストラン、アーユーレディ、ステンバイ!」

 甲高いブザーの音が響くと、一メートル四方のボックスに立った少女が、腰のホルスターから虹色のリボルバーを引き抜いて、タクティカルエリアに散らばった五つのターゲットを、「素敵」「かわいい」「絵柄好き」【なでなでする手】【泣くオタ】の五つのカスタム絵文字の弾丸で、一瞬にして撃ち抜いてみせた。地雷系とウエスタンを混ぜ合わせた姿のピンク髪の少女――雑賀朔は、リボルバーの薬莢をひとつずつ丁寧に抜いて、ホルスターに戻した。

「シーズンベストだね、調子いいんじゃない」

 タブレット端末のテンキー表示を叩きながら雑賀朔にそう言ったのは、猛禽が羽ばたいたような眉が特徴的な金髪の青年だった。短髪をかき上げ、シューティングレンジの制服のシャツの襟を正しながら、金髪の青年は手にしたタブレットを雑賀朔に渡す。雑賀朔が受け取ったタブレットには、たった今の射撃スピードの成績と、今までの成績がスプレッドシートにまとめられていた。

「リーさんは今までで一番早いのどれくらい?」

 雑賀朔に「リーさん」と呼ばれた金髪の青年――「ブロックのリー」ことライナス・シモンズ――は、そう訊かれてバツの悪そうに苦笑いした。

「じつは、速さだけならもう負けてんだよな、朔ちゃんに」

「そうなの?」

 驚いた雑賀朔に、さきほどまで雑賀朔の背後でブザーを鳴らしていた長髪の青年が答える。

「リーはさ、大事に大事に撃つんだよ。絶対に仕留め損なわないように」

 黒髪と褐色の肌が鮮やかな青年が伏し目がちに言うので、雑賀朔は首を傾げて問いかける。

「そういうロンさんは?」

 「ロンさん」と呼ばれた長髪の青年――「ミュートのロン」ことロナルド・マクバーニー――は、肩をすくめてみせる。

「さあね」

 すると、リーが割って入るように言った。

「こいつはね、絶対に撃ち損じないから。百発百中」

「んなわけないだろ」

 ロンが真顔で返すのに、リーはカラカラと笑ってみせた。

「『おじさま』はどうだったの?」

 訊く雑賀朔に、リーは少し寂しそうに遠い眼をして、言う。

「『大佐』は、俺らに教えられるくらいには、凄かったよ」

 リーとロンがインストラクターを務めているこのシューティングレンジは元々は二人の師匠である「大佐」の持ち物であり、そのひとは雑賀朔の師匠である「おじさま」でもあった。そのひとは自らを「リアクションシューター」と名乗り、いまの雑賀朔のようにMisskey.ioでのリアクションシューティングに情熱を注いでいた。

「過去形なんだね、やっぱり」

 雑賀朔の言葉に、リーは気まずそうな表情で黙り込む。そこに、ロンが引き継ぐように話し出す

「生きているとも死んでいるとも、何にも情報が得られない。大佐が言い残したように『もう会えない』のは事実なんだと思う」

 その言葉に、雑賀朔はしっかりと眼をつむって、深呼吸をする。

「わかった」

 雑賀朔は毎日のように国際情勢のニュースをチェックしていたが、「おじさま」が.ioに帰ってきそうな兆しとなるニュースが一向に出てこないこと、それどころか、希望が日に日に薄くなっていくような状況に、ため息ばかりだった。

 シューティングレンジに三人、澱みのような沈黙が漂う。

「──カフェテラスでも行くかい?」

 三人の沈黙を破るようにしてリーが言うと、雑賀朔は首を傾げて返す。

「ここまだ開店時間でしょ? 締めていいの?」

「どうせ来ないからいいよ。実際来てないじゃないか」

 リーが閑古鳥が鳴くレンジを見渡して言うと、ロンが鼻で笑った。

「いまは目の前の妹弟子を元気づけるのがミッションだろ」

 その言葉に、雑賀朔が面映ゆそうに微笑んで言った。

「じゃあ、よろしく頼むね」

 レンジのエントランスに「CLOSED」の看板が出されて、雑賀朔はリーとロンの愛車のランドクルーザーに同乗し、ローカルタイムラインの表通りを行く。

 車窓から風景を眺めれば、きょうもMisskey.ioのサーバーの街ではたくさんのリアクションがミスキスト同士でやり取りされている。

 目の前を走る村上さんのイラストを全面に載せたアドトラックも、ビルの壁面の大型ビジョンに表示された飯テロ画像も、歩道を行く絵師たちの「うちの子」たち同士も、カスタム絵文字を具現化して練り上げられたリアクションを一身に受けて「電子の抱擁」に包まれていた。

――リアクションは一番最初のものに皆が引っ張られてしまうから、一発目のリアクションシューティングは責任重大なんだ――

 師匠たる「おじさま」から何度も言われてきた言葉が脳裏を駆け巡る。雑賀朔は、涙が滲みそうな目元を少し押さえたあと、パワーウインドウを開け、リボルバーを抜いて、歩道で暗い顔をしているミスキストに向かって、「大丈夫だよ」のリアクションを放つのだった。
#リアクションシューティングガール

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CW: #リアクションシューティングガール 新総理就任の夜、それよりも大切なこと(2025/10/22 Misskey.io掲載分の再録)

 インターネットの宇宙の彼方から吹く風のなかに混じる血の臭いは、日に日に主張を強めながらSNSの街の住人たちに少しずつ「善く」「正しく」生きることを強いるようになっていた。それに屈した街の首長がおり、はたまた、どこ吹く風を装いながら必死に耐えている首長がおり――2025年10月段階ではまだFediverseの大地に立つサーバーの街の数々はその多様性を保ちながら、地平線の向こうからやってくる「未来の気配」に戦々恐々としていた。

 Misskey.ioのローカルタイムラインの表通りに、新内閣の閣僚の名前を速報する特務機関NERVのトゥートが流れて来る。女性総理の就任に比べてあまり興味をそそられないのか、それぞれに投げかけられたMisskeyのリアクションの数は少ない。その有様をローカルタイムライン沿いに建つビルの屋上に立って眺めながら、雑賀朔は苦笑いした。それで良いと思ったのだ、Misskeyのリアクションはお祭り騒ぎを演出する花火の光、もしくは、寂しさを分かち合うための電子の抱擁だから。

 眼下の表通りでは、 Misskeyの絵師たちの「代理ちゃん」「うちの子ちゃん」たちが歩道をハロウィンの仮装で闊歩して、車道ではしゅうまい君の投稿がひたすらリノートされていた。ビル群の壁面は巨大なデジタルサイネージになっており、ハイライトのノートが巨きく映し出されて、神絵師による美少女のイラストが放つ光が、日没の早くなった夜の表通りを淡く照らしていた。

 そんなデジタルサイネージの上端、ビルの最上階の縁に立って、雑賀朔は探している、リアクションがいますぐ必要なひとを。

 煙と馬鹿は高いところに昇りたがるのだと嗤われたことがあるけれど、雑賀朔はそんなことを気にしていたら大切なものを見逃してしまうと知っていたから気にしていない。いつだって偉人は馬鹿にされながら、それをはねのけて強くなる。だから雑賀朔は、Misskey.ioのサーバーの街でも見晴らしの良いところに昇って、リアクションを「撃ち込む」べきノートやユーザーを探しているのだった。

 腰に二挺のリボルバー、肩から下げたボルトアクションライフル、どれも極彩色の虹色に染まったキャンディカラーの銃身で、「実弾」は撃てないが、カスタム絵文字のリアクションを撃ち込める「リアクションシューティング」専用の銃だった。

 この装備を授けてくれた「師」はいま、アメリカで「戦って」いる。その力添えになりたいと雑賀朔は訴えたが、「師」は「Misskey.ioで自分の使命を果たせ」と言った。雑賀朔はその言葉を「師からの信頼」と受け止めて、今夜もMisskey.ioの街を見廻っているのだった。

「最近はローカルで弱音を吐く人も少ないかあ」

 そう呟いて、雑賀朔はショルダーストラップで下げたスマホを眺めて時間を気にしてみる。68万ユーザー超のMisskey.ioにおいては、愚痴や弱音はフォロワー限定やチャンネルタイムラインに流れることも多くなった。

「誰かの力になりたいな、そんな気持ちもわがままかな」

 鼻歌交じりにそう節をつけて言うと、雑賀朔はローカルタイムラインから移動しようとした、――そのときだった。

 ローカルタイムラインの歩道の脇から、ぼんやりと車道を見つめて、立ち尽くしている女の子がいる。雑賀朔がもうファーコートを着込んでいるというのに、その女の子は白い半袖膝丈のワンピース一枚で、両手両脚にはびっしりとタトゥーが施されているのが遠目にも分かった。

 雑賀朔はライフルを構えて、スコープを覗いた。タトゥーの女の子が、眉間に皺を寄せて虚ろな目で車道を見つめている――雑賀朔はいちどライフルを頬から離して、腰のベルトに差し込んであったカスタム絵文字の弾丸を「大丈夫?」「無理しないで」「ばっかお前…俺がついてるだろ」の順番で発射できるようにライフルに装填した。

 ライフルを構え直したスコープの向こうで、タトゥーの女の子が車道へと歩を進めようとしていた。雑賀朔は迷わずリアクションシューティングの引き金を引く。「大丈夫?」がタトゥーの女の子の頭に的中し、身をよじらせる。レバーを引いて次弾を装填し、「無理しないで」「ばっかお前…俺がついてるだろ」を次々と的中させると、雑賀朔はライフルを片手でつかんで頭上高く掲げた。

 リアクションシューティングを喰らって歩道に座り込んでいたタトゥーの女の子が、雑賀朔のリアクションだと気付いて、ビルの屋上を見上げる。タトゥーの女の子はしっかりと両脚で立ち、雑賀朔に向かって手を振った。数十メートルの距離を挟んで、雑賀朔とタトゥーの女の子が、確かに微笑みあった。

 Misskey.ioのローカルタイムラインの表通りは平日の夜だというのに今夜も騒がしく、ユーザーたちのリプライとリアクションで溢れかえっていた。その混沌の隙間に沈み込んでいるユーザーを、雑賀朔は見逃さない。それは、自分がしてもらったことの恩返しだから。

 ビルの屋上から降りようとしたとき、ファーコートの首筋を冷たい風が駆け抜けて、ひょっとすると明日からはマフラーが必要かもしれない、と、雑賀朔は身を縮めたのだった。

「秋はどこ行っちゃったんですかねえ、令和ちゃん」
#リアクションシューティングガール

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