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CW: 【SS】星降る夜に君を想えば
――その島は、低い音を立てながらゆっくりと空の底に沈もうとしていた。    崩れ行く島を飛空挺から眺めながら、コウモリはそっと目を細める。彼の前にあるのは、マルタ島と呼ばれていた小さな島の終わりである。一つの島が終わるときには一人の《執行人》が立ち会う。それは遠い昔に定められ、今も密やかに続けられている一つの決まりごとであった。    島の終わりとは、すなわち島の寿命である。全ての生き物の命に寿命があるように、全ての島にも島の寿命が存在している。それは島によってまちまちであって、例えば《聖都》のような殆ど無限に等しい寿命を持つ島もあれば、出来てから数十年で沈んでしまう泡沫のような島も、また存在した。    マルタ島は、どちらかと言えば後者であった。島が生まれたのは今から二百四十五年前。美しいクラトスの花が咲くこと以外には取り立てた特徴もなかったこの小さな島は、しかしそこに住まう人々から深く愛されていた。この島が終わるのならば己も共に終わると、そう定めた者達が出てしまうくらいには。    数にして百六名。家畜の数は凡そ二百頭。それだけの命が、島と終わりを共にすると決めた。それを止める理由は、コウモリにはなかった。    『己の命の使い道は己で定めるべきであり、決して他者によってその権利が侵害されてはならない』──それはこの空の世界における不文律であり、最も根源的な魂の尊厳の一つだ。それを知っているから、コウモリは止めなかった。彼等の選択は、たとえ愚かであったとしても最後まで尊ばれるべきものであった。    コウモリが見守る前で、島は徐々に徐々に崩れていく。まずは外縁部が崩れ、美しい花畑が、深い緑を湛える森が、そして家屋たちが空の底へと落ちていく。それらは白雲の層を通る過程で更に砕かれ、いずれは底に広がる《虚の海》へと至るのだろう。全ての命はそうして還るのだ。人も、動物も、島ですらも。    黙って島が崩落する様を眺めていたコウモリは、視界の端を横切った光に顔を上げた。時刻は夜も遅い。彼の頭上には深い夜空が広がり、その上には無数の星々が散らばっている。瞬き、色とりどりに輝く星々は、しかしコウモリが見ている先でまた一つが漆黒の空から滑り落ちた。一つ、二つ、三つ――徐々にその数を増やしていく流星は、一つ一つが小さくとも夜の中では灯火のように明るく、美しい。それらは命の輝きだ。星が一つ落ちるたびに、マルタ島の命も一つ終わっているのだ。    ──せめて、苦しまずに逝ってくれていたら良い。苦しむことなく、どうか安らかに。祈りと呼ぶにはささやかなそれをコウモリが抱くうちにも、空は流星で埋め尽くされていく。その美しくも哀しい光景を眺めながら、コウモリはふと、同じ景色を見ているであろう己の最愛を想った。この空の創造主であり、守護神である彼女。多くの命が還る夜には必ず城の窓辺に佇む彼女は、今もきっと、コウモリと同じ空を見ている。   「……主」  小さな声で、コウモリは彼女を呼ぶ。応えはない。届かぬように呟いたのだから、それは当たり前である。声も想いも届けるつもりはなく、しかしコウモリはゆっくりと空の果てへと向けて語りかける。   「……あまり哀しむなよ、オレの唯一。星は巡り、命は廻る。失われた命も、いずれは空に帰ってくるんだから」  呟く間にも、晴れていたはずの空は少しずつ曇り始めている。分かりやすい最愛の感情に少しだけ苦笑しながら、コウモリは島の終わりを見届けるべく、視線を天から島へと戻した。    ──島の最後の一欠片が落ちる頃には、きっと雨になっているのだろう。コウモリはそう思った。   【了】 #空の世界創作 #一次創作
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CW: ゆる語り 空の世界創作
空の世界《セレスティア》は、全ての島々が空に浮かぶ天空の世界だ。 果てしなく広がる蒼穹と白雲の中に、無数の島々が浮かぶ天空の楽園。島々は島ごとに独立した文化・国家を築き、それぞれの島には人の他にも妖精・精霊・エルフ・ドワーフ・吸血鬼・魔女といった種族が暮らしている。 世界には一柱の女神が顕現している。何もなかった空に生命と島々を生み出した彼女は、今から約1万年程前に人型を取ってのち、その形を気に入って世界のあちこちにその姿を現す。 雲と陽光を透かしたような美しい白銀の髪と、深い森の奥の湖に映った空の蒼を宿す瞳。完璧な美貌を持つ彼女を、セレスティアの民は「主様」、もしくは「母君」と呼び、親しんでいる。 これは美しい空の世界で生きる数多の民草と、社会を統べる少しの者達、そして世界を守護する女神の物語である。 #空の世界創作

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CW: 【SS】星降る夜に君を想えば
――その島は、低い音を立てながらゆっくりと空の底に沈もうとしていた。    崩れ行く島を飛空挺から眺めながら、コウモリはそっと目を細める。彼の前にあるのは、マルタ島と呼ばれていた小さな島の終わりである。一つの島が終わるときには一人の《執行人》が立ち会う。それは遠い昔に定められ、今も密やかに続けられている一つの決まりごとであった。    島の終わりとは、すなわち島の寿命である。全ての生き物の命に寿命があるように、全ての島にも島の寿命が存在している。それは島によってまちまちであって、例えば《聖都》のような殆ど無限に等しい寿命を持つ島もあれば、出来てから数十年で沈んでしまう泡沫のような島も、また存在した。    マルタ島は、どちらかと言えば後者であった。島が生まれたのは今から二百四十五年前。美しいクラトスの花が咲くこと以外には取り立てた特徴もなかったこの小さな島は、しかしそこに住まう人々から深く愛されていた。この島が終わるのならば己も共に終わると、そう定めた者達が出てしまうくらいには。    数にして百六名。家畜の数は凡そ二百頭。それだけの命が、島と終わりを共にすると決めた。それを止める理由は、コウモリにはなかった。    『己の命の使い道は己で定めるべきであり、決して他者によってその権利が侵害されてはならない』──それはこの空の世界における不文律であり、最も根源的な魂の尊厳の一つだ。それを知っているから、コウモリは止めなかった。彼等の選択は、たとえ愚かであったとしても最後まで尊ばれるべきものであった。    コウモリが見守る前で、島は徐々に徐々に崩れていく。まずは外縁部が崩れ、美しい花畑が、深い緑を湛える森が、そして家屋たちが空の底へと落ちていく。それらは白雲の層を通る過程で更に砕かれ、いずれは底に広がる《虚の海》へと至るのだろう。全ての命はそうして還るのだ。人も、動物も、島ですらも。    黙って島が崩落する様を眺めていたコウモリは、視界の端を横切った光に顔を上げた。時刻は夜も遅い。彼の頭上には深い夜空が広がり、その上には無数の星々が散らばっている。瞬き、色とりどりに輝く星々は、しかしコウモリが見ている先でまた一つが漆黒の空から滑り落ちた。一つ、二つ、三つ――徐々にその数を増やしていく流星は、一つ一つが小さくとも夜の中では灯火のように明るく、美しい。それらは命の輝きだ。星が一つ落ちるたびに、マルタ島の命も一つ終わっているのだ。    ──せめて、苦しまずに逝ってくれていたら良い。苦しむことなく、どうか安らかに。祈りと呼ぶにはささやかなそれをコウモリが抱くうちにも、空は流星で埋め尽くされていく。その美しくも哀しい光景を眺めながら、コウモリはふと、同じ景色を見ているであろう己の最愛を想った。この空の創造主であり、守護神である彼女。多くの命が還る夜には必ず城の窓辺に佇む彼女は、今もきっと、コウモリと同じ空を見ている。   「……主」  小さな声で、コウモリは彼女を呼ぶ。応えはない。届かぬように呟いたのだから、それは当たり前である。声も想いも届けるつもりはなく、しかしコウモリはゆっくりと空の果てへと向けて語りかける。   「……あまり哀しむなよ、オレの唯一。星は巡り、命は廻る。失われた命も、いずれは空に帰ってくるんだから」  呟く間にも、晴れていたはずの空は少しずつ曇り始めている。分かりやすい最愛の感情に少しだけ苦笑しながら、コウモリは島の終わりを見届けるべく、視線を天から島へと戻した。    ──島の最後の一欠片が落ちる頃には、きっと雨になっているのだろう。コウモリはそう思った。   【了】 #空の世界創作 #一次創作
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