CW: #ノート小説部3日執筆 お題『ヒーロー』 『ヒーローと呼ぶには』
辛いとき、悲しいとき。颯爽と現れて全部解決してくれる。それがヒーローというものなら――あまりにも都合が良すぎる。そう、ある少女は考えた。
彼らの生き様を描いた物語は、古今東西多くの人を魅了するし、多くは憧れの対象にもなる。身近にヒーローがいて彼らに救われた者たちは、ヒーローに憧れ、時には恋をする。それが悪いとは思わないが、一つ心配な事があった。
ヒーローもまた、同じ人間だという意識があるのだろうか、と。
とはいえ、少女は生まれた時からこんな事を考えていた訳では無く、むしろ現実に現れたヒーローにまさしく前述のような感情を抱いた側である。
では何故、このような事を考えるようになったか。
それは彼女の『ヒーロー』が、そう呼ぶにはあまりに弱点が多かったからだ。
*
「最近、純がよそよそしい気がする」
山崎愛花は眉を顰めながら、ぼやくように言った。彼女の手元には、男子サイズの弁当箱がある。昼休み開始から十五分も経った今、本来なら残さず平らげられている筈のそれは、まだ半分以上残っていた。
鮮やかな茶色の髪を指を弄ぶ彼女に、正面の女子が目を丸くした。
「よそよそしい? マナちゃんに? あの人に限ってそんな事あるかな?」
「ワタシもそう思うなぁ。マナちゃんの考え過ぎに一票~~」
右隣の女子が便乗する形で、ゆったりとした声と動作で笑った。
事態を軽く受け止めた風の二人に対し、愛花は頬を膨らませた。
「むぅ、ミカちゃんもカエデちゃんも大したことないって思ってるでしょ」
「だってマナちゃん、前に『純の返事が冷たい』って悩んでたけど、『スマホの文字が打ちづらい』ってだけだったでしょ~~」
「ああ~~、あの人ただでさえ不器用なのに手も大きいもんね」
「うぅ、確かに文字打つのがおじいちゃんみたいに遅かったけど……」
手前の少女ミカと右隣の少女カエデが揃って笑うと、愛花はバツの悪さと共に生姜焼きを一口呑み込んだ。
「そういう訳だから、マナちゃんはいつも通りにしてたらいいんじゃない?」
「それでも何かあるなら聞いてみれば? マナちゃんに真剣に聞かれたら、逃げられないと思うし」
「う~~ん……そうかな……」
愛花は釈然としない想いを抱えたまま、白米を口に運んだ。
「それよりマナちゃん。その髪飾りだけど……」
「あっ……うん。ちょっとね……」
*
しかし、その日も翌日も、愛花の悩みは解決しなかった。
そして遂に、愛花は彼を呼び出した。メッセージで呼び出した分には、彼の対応は変化が無い。
そうして放課後。正門前で待つ愛花の前に、長身黒髪の男が現れた。
滝本純。愛花の幼馴染だ。今日の彼は、昨日までより幾分か愛花を見る目が柔らかかった。それを察した瞬間、愛花は質問事項を変えることにした。『どうして自分によそよそしいのか』ではなく。
「純、何か……私に隠してない?」
言い訳を許さないように、真剣な眼差しを向ける愛花。その眼を前に、純も観念したように小さく息を吐いた。
そして鞄に手を入れると、綺麗な花の髪飾りを差し出した。
「これって……私の髪飾り?」
純が取り出したのは、愛花の髪飾りだった。先日の学校帰りに失くしたと思ったものだったが――。
「探してくれたの? でも、それなら何で私を避けるような……先週の事? 何かあったっけ……?」
純が愛花によそよそしかった理由が『先週の失敗』という事だったが、愛花にはまるで覚えが無い。そして彼が言った失敗を聞くと、愛花は思わず大きなため息と共に全身をがっくりと脱力させた。確かにその瞬間こそ少しムッとしたが、言われて初めて思い出したうえに、今考えれば機嫌を損ねる程の事でも無かった。何しろ、その程度の事は数え切れないぐらいあったのだから。
「あのね……純。そんな事で嫌いになるんだったら、私は一体何百回純の事を嫌いにならないといけないの?」
腹の底からため息を出しながら、愛花は極力声の調子を維持しようとした。しかし、あまりにも真相で拍子抜けしたせいで、無駄な抵抗だった。
純は失敗が無くてもどの道髪飾りを探しただろう。だが、失敗の埋め合わせに『髪飾りを見つけないと合わせる顔が無い』などと考え出すのが、純という男なのである。
しかし、きっちり髪飾りを見つけてくれたのも事実。これもまた、純なのである。
「はぁ……もういいや。いや、怒ってるんじゃなくてね。……晩ご飯? うん、今からお母さんに連絡すれば大丈夫だけど……美味しい濃厚豚骨ラーメン!? 行く行く!」
わざわざ愛花が好みそうな店を見つけてきたのだろう。
そう思うと、愛花は途端に可笑しくなってきた。
「……ん? いや、その……やっぱり、純は純だなって」
愛花は、本来家用のシンプルな髪飾りを外し、受け取った髪飾りを着けた。そうして純を見ると、二日ぶりに――いつも通りに、花の咲くような笑顔を見せた。
滝本純は、ヒーローと呼ぶには弱点が多すぎる。だからこそ、山崎愛花は恋をする。
#mud_braver